遠くない将来、不動産テックによって不動産ビジネスは劇的に変化すると言われている。
これまでの商慣習や仕組みが変わり、無数の新ビジネスが生まれるかもしれない。
日米を中心に不動産テックの最新動向をまとめた「不動産テック 巨大産業の破壊者たち」(日経BP社)が出版された。前回に引き続き(前回記事はこちら)著者である北崎朋希氏と本間純氏に聞いた。(リビンマガジンBiz編集部)
ーアメリカでこれだけたくさんの不動産テック企業が生まれる背景は何でしょうか。例えば、消費者は不動産へのリテラシーが高いから、既存の不動産ビジネスへの不満が強く、テックが生まれる土壌になっているということはありませんか。
北崎 いえ、アメリカの消費者もリテラシーは高くありません。例えば、日本でも問題視されている両手取引や囲い込みなどを正しく認知している人はアメリカでも少ないというレポートもあります。
本間 ただし最近は、消費者団体が両手取引の禁止を求めて訴訟をやっていたりしますね。
北崎 日本とアメリカの消費者で違う点を言えば、住宅価格に対する意識はアメリカの方がはるかに高いです。それはアメリカでは住宅へ課せられる固定資産税が高いからです。(※4)自宅の価格がいくらかで税金の価格が変わってくる。そこは結構、気にしている人が多い。そこでZestimate(※5:ゼスティメイト)で、現時点での自宅の価格が簡単にわかるというサービスが急速に普及して、とても重宝されたのにはそういう背景がありますね。これで、固定資産税が高すぎると交渉ができるようになった、その衝撃はかなり大きかったのかと思います。
※注4=米国では時価に対して2~3%が固定資産税として課せられる。
※注5=全米最大の不動産ポータルサイト「Zillow」(ジロー)が始めた不動産価格推定サービス。
ー価格推定について、日本はかなり出遅れている気がします。不動産価格の透明性を高めるためにレインズを一般にも広く公開すべきといった声もあります。本書を読めば、そういった議論自体がやや周回遅れのようにも思えます。
本間 過去には政府内でも法制化の議論があったのですが、本来は売買された時の価格が登記簿に載るべきでしょう。そうすれば、不動産マーケットの透明性は飛躍的に高まるはずです。すでにイギリスでは近い形になっていて、アメリカでも州によっては分かるようになっています。しかし日本の現状は遅れていて、レインズや国交省の不動産取引価格情報検索も全ての取引を網羅できているわけではありません。価格についての情報が少なすぎるので、ネットのクローリングが必要になっているわけです。ただ、この手法は権利関係でグレーな部分を含むので禁止すべきといった意見も出ている。不動産価格のAI査定に取り組んだけど、すでに撤退した不動産テック企業も出ています。
北崎 AI査定だけで収益を上げて、事業を継続していけるわけではないようです。それによって集客して別のことで利益を上げている。例えば売り主からの仲介手数料の獲得です。だから、アルゴリズムを調整して本来の推定価格より高めに出す仕組みが拡がっていると指摘する声もあります。高めに出れば一般消費者は家を売る気になるという論理なのでしょう。でも、それでは、高めに査定額を出して専任媒介をとる既存の不動産会社のやり方と同じになってしまいますね。
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