遠くない将来、不動産テックによって不動産ビジネスは劇的に変化すると言われている。
これまでの商慣習や仕組みが変わり、無数の新ビジネスが生まれるかもしれない。
不動産テックに関連する企業経営者や行政機関などに取材し、不動産テックによって不動産ビジネスがどう変わっていくのかを考えてみる。
今回は、不動産会社経営の経験から賃貸仲介の集客支援と入居者サービスを兼ねる『住むサポ』を提供するベェイシック(東京・港区)の出川久敏社長に話を聞いた。(リビンマガジンBiz編集部)
ベェイシック・出川久敏社長(撮影=リビンマガジンBiz編集部)
―『住むサポ』について教えてください。
『住むサポ』は賃貸生活の裏ワザアプリです。2018年11月末にリリースしました。
サービスには2つの軸があります。
1つは、不動産会社に向けの契約書類の一括管理や敷金トラブル回避といった業務効率化です。ユーザーである入居者は、入居時に契約書や部屋の様子をスマホで撮影します。
これまで契約書を保管できるサービスはありませんでした。
今、電子契約や電子申込みのサービスがたくさん出てきましたが、会社によって利用しているサービスは様々です。では、不動産会社や入居者がそれらの契約書をどこに保管するのか、というときに『住むサポ』です。スマホの写真やpdfファイルを保管できるドロップボックスのようなものとしても利用してもらいます。
また、入居時と退去時に部屋を撮影してもらうことで、部屋がどのように変化したのかが分かります。2020年の民法改正により、原状回復義務や賃貸住宅の修繕のガイドラインが変わります。そういった時流もあり、今後かなり需要があるでしょう。
2つ目の軸は、「住むサポキャッシュ」や「住むサポクーポン」といった、入居者が生活する上でお得な情報やキャッシュバックが受けられるサービスが備わっているという点です。
契約書をスマホで撮影すると、入居状況に応じたガスや電気をより安いインフラに変え、月々のコストを削減することができます。重説には昔からのインフラ会社のままになっているところがほとんどですから。入居者は何もしなくて大丈夫です。工事なども不要で切り替えることができます。
また、キャッシュバックを行っているインフラサービスもあります。そのキャッシュバックを入居者がもらうことで、よりお得に住んでもらえるサービスを作っています。
(画像提供=ベェイシック)
―現在どれぐらいの方に利用されているのでしょうか。
これまでに約500のダウンロードがありました。
まだ、プロモーションをほとんどせずに、サービスの作り込んでいる段階です。
―入居者へのキャッシュバックはいくらぐらいなのでしょうか。
まず、『住むサポ』から紹介した不動産会社で入居が決まった段階で5,000円のお祝い金が支払われます。「住むサポキャッシュ」は、インフラなどのサービス提供者から広告会社を経由している中間マージンを入居者にバックする仕組みです。例えばガス会社の変更などによって25,000円以上のキャッシュバックができます。同額を提携不動産会社にもキャッシュバック致します。
(画像提供=ベェイシック)
―不動産会社にとっては集客ツールとしても使えるのですか。
入居した際、入居者に賃貸借契約書の写真を撮ってもらいますが、OCR技術で文面を読み込みます。例えば、入居1年以内に引っ越そうとした入居者に違約金の有無を伝える、特約におかしな部分がないかなどを調べ、いつ退去できるのかなども教えます。
そして、その入居者を仲介した不動産会社には、次に入居者が「引っ越そう」と思ったタイミングで通知が飛ぶようになっています。
『住むサポ』経由で入居希望者が来店成約した場合、15,000円料金を頂戴する仕組みになっています。その中の5,000円は入居者のお祝い金になります。来店課金型ですね。賃貸仲介の来店単価が3万円以上になっている会社も多いため、かなり安い価格です。
―どうやって引っ越しするタイミングが分かるのでしょうか。
「住むサポ」には、敷金がいくら戻ってくるのかを調べる「敷金見積サービス」があります。退去しようと思ったとき、部屋の写真を撮ると敷金が査定されるんです。この返還敷金システムは特許を取得しました。このサービスを使うということは、引っ越しを考えているということが分かりますよね。そこで、不動産会社に通知がされるのです。
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