遠くない将来、不動産テックによって不動産ビジネスは劇的に変化すると言われている。
これまでの商慣習や仕組みごとかわり、無数の新ビジネスが生まれるかもしれない。
不動産テックに関連する企業経営者や行政機関などに取材し、不動産テックによって不動産ビジネスがどう変わっていくのかを考えてみる。
今回は、スペースシェアサービス『軒先ビジネス』、空き駐車場のシェアリングサービス。『軒先パーキング』を展開する、軒先(東京・千代田区)・西浦明子社長に話を聞いた。(リビンマガジンBiz編集部)
軒先・西浦明子社長(撮影=リビンマガジンBiz編集部)
―メインとしてやられているサービが2つありますね。『軒先ビジネス』と『軒先パーキング』。最初に始められたのは『軒先ビジネス』ですね。
サービスを始めたのは2008年からで、会社を立ち上げる前のことなんです。最初は個人事業主で始めました。そこで手応えを感じ、1年後に法人化しました。当社のサービスはツーサイドのプラットフォームサービスです。場所を提供したいという方と、場所を使いたい方、両方のニーズがあって初めて成り立ちます。その中でも商品であるスペースや建物がないことにははじまりません。私がサービスを始めた頃は、まだシェアリングという言葉もなく、「場所を貸してください」とお願いしてもなかなか貸してくださる会社がありませんでした。
これは大変だなと考えていた矢先に、リーマンショックが起き不動産業界の風向きが大きく変わったんです。リーマンショックで所有する不動産を売却できなくなった不動産会社がたくさんでてきたんです。売却先は見つからないのに、固定資産税や維持費がかかってしまう。
そういった中で、ある不動産投資会社の担当の方が「所有している物件を登録してみたい」という話になり、商業用ビルを数棟登録していただきました。ずっと売却中ののぼりが立ったままで、古い4階建ての上物が立ち、中には居抜きの寿司屋があったりする物件でした。しかし、立地が良いことから、短期で使う方が集まりました。
そこで、「こういう物件ならお客さんがついて、これぐらいの収益が上がる」という実績が出て、法人化しました。
―今は、どれぐらいの物件登録数があるのですか?
『軒先ビジネス』は2,000~2,500件ほどです。後から始めた『軒先パーキング』は7,000台強です。『軒先ビジネス』はBtoBが多く、『軒先パーキング』はCtoCが多いという違いがあります。どちらのサービスも当社が日本初だと思います。
また、利用者(ユーザー)としては『軒先パーキング』は23万人、『軒先ビジネス』は4,000社のアカウントがあります。
―サービスを開始されて10年目ということですが、登録される物件や利用者に変化はありますか。
不動産オーナーの認識が変わってきていると感じます。民泊などが話題になっているように、通常の不動産取引ではない形で賃料収益をあげるということが一般的になってきています。我々のようなシェアサービスは、特定の方が長期にわたって利用するわけではないので、そこを不安に思われる方が多かった。
しかし、民泊のインパクトはすごく大きくて、「通常の不動産活用以外の方法でも収益を得ても良いかな」という態度の軟化、ハードルが下がった感じがあります。本当にここ3年ぐらいですね。
―民泊新法が施行された影響はありますか。
民泊は新法がスタートして、ハードルが高くなってしまいました。個人ができる民泊が、ある意味では排除されるようになってしまった。一方で、駐車場のシェアリングは、許認可の制限もなく、誰でも始められます。シェアリングサービスをはじめてみるには、一番とっつきやすいのではないでしょうか。
最近では、道の駅の駐車場なども扱っています。総務省と国の事業の一環として当社のサービスを使っていただいているのですが、九州では7つの自治体とコンソーシアムを組みました。今まで、道の駅の駐車場は長時間、無料で停めている方が多かった。
そこで、駐車場にデバイスを設置し、予約するとQRコードが発券され、それを読み込ませると外部電源が使える仕組みを作りました。キャンピングカーなどで車中泊をされる場合、外部電源のニーズがありますから、予約した方は電源が使えるといったメリットを提供して、収益化がはかれました。
また、そのコンソーシアムの主幹事である、福岡の駐車場会社では、キャンピングカーのレンタルもしています。また、近くにアウトドア用品店がある駐車場では、そのお店からアウトドア用品やテントなどを借りる仕組みなどもあります。
つまり駐車場予約をポイントにして、周辺の観光や施設の利用促進にもつながるサービスに拡大しています。
「駐車場を予約する」という一元的なサービスから、いろんな部分を深掘りしています。「駐車場を軸にいろいろな人の導線を設計できのではないか」と感じています。もちろん駐車場予約ができるプラットフォームという側面もあるのですが、いろんな地域の問題を解決できるサービスとして位置づけるような事例は増えています。
―10年間で、オーナー側の意識の変化があると仰っていました。もう一つ、デバイス・スマホなどの発達はどう影響しましたか。
それは大きいです。特に『軒先パーキング』で感じます。出先で駐車場を探したりする需要が出てきたのは、スマホの普及によるところが大きいと思います。
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