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SengokuLAB・仙石裕明博士(撮影=リビンマガジンBiz編集部)

―将来のひとつの野望のようなものとして「都市Hack」がある。そうした未来のためには、Google以外にもライバルとなるような会社はあるのでしょうか。

ライバルという発想はあまり持っていませんが、強いて言うならば人手がとてもかかり、なかなか自動化・効率化できない社会の業務構造ですかね(笑)

これまでデータにして表現・予測できていなかった都市に関する情報を出してより生産性を高めていくことに寄与したいと考えています。ゼンリンやNTT空間情報といった地図データ基盤を開発されている企業は、まさにデータベースを作って販売しています。ゼンリンさんの地図などはとても精緻である一方で、凄まじい労力をかけて作成されていますよね。そういう今まで人手をかけてやっていたことを自動でできるようにして、もっと安価で流通性を高めつつ、さらに高次元のものを生み出せるようにコラボレーションしていきたいですね。

―逆に協業しようという会社はないんですか?ヤマト運輸とか、amazonとか、ヤクルトなど地図と関連する企業は多い。将来的に提携する可能性などはありますか?

もちろん、あると思います。というか随時募集しています(笑)。

運輸・流通関係であれば、日々の運搬実績データと地図基盤を紐づけていくと効果的な予測が沢山できてくると思います。

―基盤というの はどういうモノなんですか。

例えば、地図に落とす際に必須となる緯度経度や、建物の面積はこれぐらいで、人口は大体どれぐらいが住んでいるとか、そういう地域に関する情報がある程度まで整備されているのが地図基盤です。こういう情報があるのとないのとでは大きく変わってきます。

仮にいつの時点だと留守である可能性が高いとか、洗濯洗剤以外にも定期的に購入したい商品があるかなどを知りたいとします。その際に、膨大な購買データがあって、洗濯洗剤を1カ月に1回買っているといった情報が手元にあるとします。これは予測モデルを作るための「答えのデータ」を持っているといえます。しかし、洗濯洗剤を1カ月に1回買っている人がどんな傾向の人であるとか、理由まで分からないと、正確な予測は難しいでしょう。

そこで地図基盤をもとに、そもそも購入者はどういう地域に住んでいて、何人家族だとか、近くにスーパーがあるのかとかが分かっていたら、予測モデルの表現の幅が大幅に広がります。

少し脱線しますが、統計的な予測モデルを作るときに目的変数と説明変数と言うものがあります。ざっくりといえば、目的変数は「答え」、説明変数というのは「理由」となるデータです。今回のように地域に関連した予測を行う場合には、地図基盤が必要不可欠といえます。

画像や自然言語処理を対象にしたデータ解析・予測と比較すると分かりやすいかもしれません。今、我々の話している言葉はまさに自然言語処理の対象となるわけですが、今、我々は不動産の話をしているというのは、その文脈から必ず分かる話です。つまり、こうやって話が成立しているということはお互いの話を認識できているわけで、今話している言葉のなかで、認識に必要な情報や認識のために必要なルールが充実していると言えます。

でもさきほど例に出した在宅予測や購入予測などの人にまつわる社会経済的な予測の場合は、予測に必要な情報を揃えられないことや、背景の複雑な関係性を解き明かせないことが多々あります。

不動産で言えば、売買価格を予測することは、さまざまな要因が関係しているでしょう。よくある駅からの距離や築年数だけで多くを説明できるケースもありますが、タワーマンションだと階数がウェイトを占めているかもしれませんし、都心までの時間距離など影響を無視できない変数は多分に存在しえます。しかし、その理由となる変数がそもそも存在していないことやとても高価で予算オーバーであることなどの制約により、予測が頭打ちになることは決して珍しい話ではありません。一つの方針としては、できる限り予測に使えるデータを増やしていくしかなくて、その意味で地図基盤がとても有効です。

一つの駅が変わってしまうと、家賃が変わる。だから一つの駅の中にある物件だけを集めるとなったときに、地図基盤がないとそういう整理の仕方やデータの切り分け方ができなくなります。

―都市や街の情報について研究、開発していますね。この街が面白いといった人の感覚的なものもわかるのでしょうか。

そういうこともやりたいと思っています。私は人を分類して、整理したいと思っていて、性格診断テストって、あるじゃないですか。あれと同じで、人によって街に対しても好みが違います。この人は衛生状態に過剰に反応する人、かなり京都の街並みが好きな人などを分類した上で評価する仕組みは作りたいと思っています。

最近アメニティ(※)という言葉が学会でよく出てきます。多様性をいかに指標化してモデルに組み込むかって言うのは、ホットトピックスですね。

(※)生きるうえで人が心地よく感じること。

―SengokuLABは何名で運営されていますか?

私以外は全員インターン生なんですが10名います。学生が多いという意味では、本当にLAB(研究室)なんです。実際に共同研究費として、大学からも予算をいただいていますが、私が大学に雇ってもらっているわけではありません。自分たちの研究で、研究資金を稼いできて、運営しています。資金調達は大変なのですが、そういう研究共同体を作っていきたいと考えているんです。

―では、最後に仙石さんから見て面白いと思う街はありますか。

東京でいえば、神保町のような街が面白いと思います。ああいう街は土地が狭い。そのおかげで、安くておいしいお店が多いですね。実は東京駅からもすぐ近い、いい立地なのに再開発が抑制されて、実現できているというのは面白いですね。神保町みたいに区画が狭くて、一つ一つの土地が安い割に、近くにランドマークがあるのは面白い街になる条件の一つだと思います。

 
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