SengokuLAB・仙石裕明博士(撮影=リビンマガジンBiz編集部)
―東京大学では地図について勉強されていたそうですね。
大学では画像解析などをメインにやっていました。航空写真や衛星画像を解析していました。それから大学院にすすんでからは、地図データ・オープンデータを用いたデータ解析がメインになっていき、オープンデータを併用した個人情報の代替や将来予測の研究を始めました。その前段階として、ゼンリンの住宅地図や、NTTの電話帳データという全国の店舗情報や建物情報をいかに一つのデータベースにしていくかという研究をしていました。名寄せをいかに効率化して精度を高めていくかといったことですね。
不動産ビジネスでいえば、どこが売りに出されているか、どこが空き家なのかといった情報ですね。
売りに出ている情報しかないと、エリアにある住宅全体のうち何割が減少が起きているのかが全体的に分からない。だから、地図データ(住戸数)と人口データ(世帯数)を結合していき、例えばここは住戸が5,000戸あるのに、世帯数は4,000しかないとなると、残りの1,000戸は空き家になっているということになりますよね。
地図データ・建物データは箱があるというだけですので、箱の中に入っている人やモノに関する情報を結合することで全体的なことが分かって、それが分かると将来人口のように、何割の人がどこの地域に移動しているのかや、いなくなっていく傾向が分かるようになります。これが、予測モデルのなかで重要な位置づけになっていきます。
―そうしてできたデータはどういった目的に使えますか。
店舗の出店がわかりやすいですね。商業不動産を建てるときに、ある程度の需要が見込めないと決定できませんよね。コンビニであればコンビニ出店の基礎になるモデルを各社持っているので、その中に当社の予測するデータを入力すれば売上予想が算出されて、出店する際の判断材料になります。、こういったかたちで、すでにデータを購入いただいています。
―不動産業界向けにそういった使い方はあるんですか?
不動産開発だと、まだあまり事例は多くはないですが、不動産レポートというかたちで、そこにマンションを建てたら将来性があるのかといったことを判断するために人口情報を使ってもらっています。
―データが集まってくれば、もっといろいろな予測が立てられると思います。将来的にこんなことがやりたいというのはありますか?
ものすごくあります。一つは、住戸と家族タイプとの需要と供給の一致です。私は、「地域にある住居のタイプによって、そこに住む家族形態は紐付けられている」と思っています。例えば夫婦と子ども1人の3人の世帯が住むのは、だいたい2DK以上の間取りですよね。
だけど、その地域にはワンルームで、2DK以上の部屋がないとなれば、その世帯は別の地域に住まなくてはいけなくなる。需要と供給が一致していないわけです。そういったミスマッチがデータで証明できれば、いくつかのワンルームを1つにして2DKにするといった解決方法をとることができる。また、将来的な需要がいつ来るのかといったことが事前に分かれば、新たにそういった需要の高まっていく間取の住戸につくりかえたり、必要な設備を設置することもできる。
不動産オーナー向けのマーケティングツールといいますか、将来的にずっとその物件に住み続けてもらうために、人口の変化を推定して、自身が運用しているテナントや物件をどう変えていかなければならないのかを把握していくツールにしたいです。
年収比率_2人以上世帯_本郷3丁目周辺を中心とした場合
(画像提供=SengokuLAB)
他は、少し都市工学とか街づくりに近い話になっていくんですが、再開発をしたときにどれほどそこに人が居住するのか、そしてどれくらいオフィスの需要が発生するのかといった需要推計のプラットフォームを作っていきたいと思っています。
―とても社会的な必要性が高いものです。ただ、将来人口の予想などは、すごく高度な技術が必要なはずです。
高度なことばかり追い求めているわけではないのですが、やりたいことを聞かれれば、こういうことになりますね。でも、現状はオープンデータを取りそろえて使えるようにするまでが一苦労です。
コストもかかるので、これまで大学の研究者やシンクタンクなども、データ整備や手法構築するところまでで、実際に使えるものを作るまでにはなかなかいけていません。そういうのを私がやって、住宅地図をはじめとする地図データに結合して、過去と将来の時系列もつないで予測するだけという状態をつくりたいです。例えば、「ここに駅ができたら」「マンションができたら」とか、疑問を投げたらすぐに返ってくるようなサービスがある未来です。
そのためには、エリアに関する情報を総合的に取得できる必要があります。たとえば、公図の情報をデジタル化して、マップデータに落とし込むことがあります。これはもともと法務局からPDF形式等で提供されるため、そのままでは地図に載らない情報です。マップに載せられるように加工したり、住所表記と紐付けたりすることができれば、すぐにどこの場所かを特定することもできますし、ざっくりとではありますが筆界の範囲を特定することができます。
さらに用途地域や容積率などの情報を紐付けることができれば、未消化の容積率が残っているかどうか等、データからしかみえない土地のポテンシャルが見えてきます。そうすれば、再開発の際にマンションや商業施設を作れるので、土地の最有効活用ができるはずです。こういうモノも併せて、人口など需要がどれほどあるかというデータも併せて、ここにはこれを作るべきだといったことが自動的に見えてくるようなシステムを作りたいですね。
―さながら「都市Hack(※)」ですね。住みやすい、暮らしやすい、完璧な街を作るための道具が欲しいわけですね。
※注=Hack:テクノロジーでものごとをスムーズにしていく行為
そうですね。それが『Google Earth』のような誰でも使える機能として存在すれば、ある意味何でもできると思います。たぶん、10年~20年後は、そういうプラットフォームの上にサービスが乗ってると思うんですね。それが、世界中でできるようになると思います。これだけ世界には情報があふれているわけだから、うまく整備して、その先を予測できるかできないかだけですから。
―日本は不動産に関する情報の秘匿性が高くて、先進国の中でも独特だと言われていますが。
たしかに日本では、肝心なデータが抜け落ちています。不動産テックに取り組む各社では、それなりのデータを持っていると思うのですが、分断された情報になっています。
垣根を取り払って、データを共有するとか、新しいビジネススキームを作って、国に頼らないデータベースを作ることができればイノベーションはおこせると思います。一気通貫して、土地の取得やマーケティングの段階から、施工や売買の分野まで一気通貫して見えるようになる。そういうことができれば、日本の硬直化した不動産業界の負の構図がなくなるのかなと思います。