遠くない将来、不動産テックによって不動産ビジネスは劇的に変化すると言われている。
これまでの商慣習や仕組みごとかわり、無数の新ビジネスが生まれるかもしれない。
不動産テックに関連する企業経営者や行政機関などに取材し、不動産テックによって不動産ビジネスがどう変わっていくのかを考えてみる。
今回は、マンションの価格相場や口コミが分かるサイト『マンションレビュー』を提供するグルーヴ・アール(東京・港区)川島直也社長に話を聞いた。(リビンマガジンBiz)
グルーヴ・アール・川島直也社長(撮影=リビンマガジンBiz編集部)
―価格相場や口コミを見ることができるサイト『マンションレビュー』を運営されています。不動産テックのなかでも情報の可視化に取り組んでいる企業のひとつと認識されていると思います。
そうですね。私は不動産売買仲介会社に勤務していましたので、相場や口コミなどの情報にはニーズがあるなと感じていて、起業してマンションレビューを始めました。また、そこで得たWebマーケティングのノウハウやビッグデータを活用した、不動産会社向けのWebマーケティングの支援もおこなっております。
マンションレビューの特徴は、不動産相場や資産価値という定量的な情報と、口コミのような数値化できない定性的な情報、どちらもあるという点だと思います。実はユーザーによって求める情報が違うんです。
どちらかというと男性は購入を検討している物件の資産価値を重視していて、それを知るために相場の情報や偏差値とか騰落率などを知りたいという使い方が多いです。一方女性は、住み心地を重視するようで、口コミを知りたいといった傾向があります。もちろん、女性が資産価値を全く気にしないということはないんですが、比較的そういう傾向がありますね。広くユーザーを獲得するためには両方の情報があるというのは良いことだと思っています。
マンションレビューの画面(画像提供=グルーヴ・アール)
―不動産の相場、物件価格を推定していますが、これは過去の売り出し価格のデータを元にしているのですか?
過去の売り出し価格など複数の情報、いわゆるビッグデータからAIを使って算出しています。といっても、推定するためのロジックは、基本的に不動産会社さんが査定時にやられている方法と変わりません。
結局、市場の価格というのは、不動産会社が査定して、出し値が決まっていますので、そのやり方を踏襲しているんです。机上で理想値を出しても、実際の不動産市場と大きく乖離していては意味がないように思います。だから、不動産会社がやっている査定をAIにやらせているといった感覚ですね。市場では居住用の物件ならば、取引例比較法で査定が行われています。そこをアメリカのように収益還元法で出しても意味がありませんよね。実態との乖離があると価格推定の意味がありませんから。市場の値段がそのままわかるように作っています。
―その査定方法も、シンギュラリティではないですけでも、人間がやっていることより遙かに正確な方法が出てくると、大きく変わる可能性もありますよね。
可能性はありますが、不動産の場合は、現場の不動産会社の方が取り入れない限り変わっていかないのではないでしょうか。机上で正確だと思われる価格を出したところで、価値を認めてもらえないというか…。結局、不動産も株と一緒で、私は市場がすべてだと思っているので、そちらに近づけるという感覚ですかね。
例えば「AIがトヨタの株価は1,000円だよ」と言ったところで、市場で900円となっていれば、その市場で取引されている900円が現在の株価だと思うので。
―お話を聞いていると、不動産会社の仕事をディスラプト(破壊)するというよりも、不動産会社の持つ情報がなかなか一般の人に伝わっていないので、その代替をやっているように感じます。
そうですね、「不動産業界を根底から覆す」とかは特に考えていません。とにかくエンドユーザーがより多くの不動産情報に簡単にアクセスできるようにするサービスを作りたいと考え、運用していています。
―大手ポータルサイトとも提携していますね。既存ポータルサイトの代わりになるということも考えていませんか。
LIFULL HOME’SやSUUMOは非常に強いサイトです。正面から戦って、シェアを取って、代わろうとは考えていないですね。市場の中で、足りていないところでやっていきたいという感覚でいます。