スタイルポート・間所暁彦社長(撮影=リビンマガジンBiz編集部)
―現在、『Roov』はどういった企業に提供していますか。
主要な取引先は大手デベロッパーがほとんどですね。VRサービスだけでなく、内覧会サービスも継続していますので、マンションデベロッパーが多いですね。
当然ですが「不動産は動かない」、それがネックになっている部分が大きいと感じています。そこが、マッチングと一番相性の良いインターネットとの関係性を悪くさせている要因です。その動かない部分をどうするのかという観点から、その1つのソリューションとしてVRの開発を続けています。
VRはたくさんのサービスが出てきていますが、ほとんどがパノラマ画像を使っています。360°カメラで撮影した画像です。それではあくまで、イメージを補助していく機能しかありません。
CGであれば、インテリアサンプルや景観を見ることができ、ユーザーのログを解析することもできます。これはVR世界に入ってきたお客さんが、その中でどういった行動をしているのかを見ることができるということです。どういった行動が、購買につながりやすいのかを把握でき、その後の営業活動に繋ぐことができます。
イメージに体験をくわえて、提供することによって、現実世界で内覧する時に確認できることは網羅できる状態を目指しています。
CGであれば、住宅を検討するために必要な情報量が多いんです。例えば、画像だと先ほど言ったように天井高や窓の大きさなどサイズに対する情報がありません。やはり、住宅を購入するときにサイズの把握が非常に重要です。また、サイズが把握できるので、「壁紙を変えたい」といった要望があったときに、部屋の壁紙を全部買えたら何平方メートル必要なのか、そしてコストはいくらなのかといったことも全部データの中に入ります。こういった情報は購入検討者にとって大きいと思います。
さらにCGならば、アドオンで様々な機能を追加することもできます。今、開発中なものでいえば、外からの日照を再現する機能です。何時にどれぐらいの明るさなのかも知ることができます。
CGの元データを作ることによって、あとから様々な機能を追加することができるというわけです。この元データにコストがかかるのですが。
―コスト以外の課題はありますか。
未着工物件の場合、図面上では全ての仕様が書き切れていない場合があるんですね。その図面を元に立体にしてしまうと、現実に仕上がったものには足りない部分があります。そうなると、形を作ってからデベロッパーの方に見てもらい、修正が入って直すという作業になり、また人手がかかってしまうんです。逆に言えば、それぐらい正確さを重視しているともいえるのですが…。
大手ポータルサイトに載せる広告物なので公取との関係性もあります。ユーザーからすると、平面の図面よりも立体のCGの方が効用が大きいので、間違っているのは許されないわけですね。
―正確さとコストの兼ね合いだと、やはり開発しているCGエンジンが肝だと思うのですが、今までどれぐらいの費用をかけたのでしょうか。
正確な数字は申し上げられないですが、。サクサク快適に動く部分に、約1年の時間と相応の開発費をかけています。
かなり大変でした。現在、他社で使っているエンジンとベンチマーク比較をしているのですが、シリコンバレーでトップクラスといわれる会社と比較してみても当社の方が頭一つ抜けて早いです。ここには技術的なアドバンテージができたと思っています。
これは、お金だけではなくて優秀なエンジニアが数人いないと作れません。仮に大手企業が自社だけでやろうとしても、大変だと思います。
―ログ解析の部分について。本コーナーではたびたび出てくる話題ですが、不動産業界はデータの取得と蓄積がされていないという課題があります。
データ取得を本格的にやろうとなると、内覧の現場には課題が多いです。現場では、まだ紙が中心で来場者が指摘した事項などは、後でとりまとめてデータベースに入力しているんです。来場者の動向は、すごく貴重な情報で、ある程度のボリュームになると、重要な傾向がつかめます。どういう物件だと、どういったクレームが多いのかといった情報は、次の物件企画に大いに役立つはずです。
VRでいえば、部屋の中の行動の軌跡は全てデータとして蓄積できます。やっていく上で、営業成約率との相関も見えてくると思います。「この人は購入意欲が高い」といったことを、すぐに営業社員にフィードバックすることができれば、追客などにも活用できますよね。
当社は「不動産ビジネスをアップデートする」という理念、ビジョンを持っています。
IT系のプロダクトであれば、ABテストなど仮説検証をすごいスピードでやっている。でも不動産デベロッパーは、1つの製品を作るのに2年半ぐらいかかる。だから、1人の開発担当者が作れるマンション自体がそんなに多くないんですよね。
VRで得た情報をうまく使えれば、デベロッパーも精度の高いマーケティング情報を元にした物件開発ができるようになるはずですね。