GA technologies・樋口龍社長(撮影=リビンマガジンBiz編集部)
―サービスについて教えてください。
まず『Renosy』です。これは物件カタログだと考えています。現在、売り出している物件も、売ってない物件もどちらの情報も見ることができます。東京23区に限れば、大手の不動産ポータルサービスと比べても2.5倍の物件情報があります。ファミリー向け、投資用ワンルームも含めれば23区で約1万5,000件(2018年4月取材時)あります。そこから、不動産の売却に必要な行程にすべてアクセスできるわけです。
『Renosy』の特徴を説明するときに、網羅性・開示性・客観性・透明性・即時性とお話ししています。
網羅性は、先ほど紹介した物件情報の多さですね。
開示性は、それぞれの建物にどんな部屋があるのかが分かるようになっています。当然、価格推定もやっています。成約事例もある。さらに物件が売り出されたら通知する機能もあります。システムが連動できれば、この物件が出たらすぐに買うといっていた人に情報を即時に伝えることができ、中古不動産流通の活性化につながります。
そして、Techシリーズですね。これは社内の業務管理システムです。『Tech Supplier』は仕入れの業務システム、『Tech Consul』はCRMでの顧客管理、『Tech Marketing』はマーケティング、『Tech Management』は運用ツールですね。これらを活用して一人当たりの生産性を上げています。
顧客管理ツールは、従来、不動産会社の営業担当社員がアナログ的にやらなければいけなかった業務を効率化します。ローン査定など、購入されるお客様の年収に応じて計算していましたが、このツールなら最初に登録してしまえばあとは自動でできるように、システム化しています。
あとはMAツールですね。これは、会員のWEBコードをトラッキング(追跡)し、成約確度の高い物件を営業担当社員にレコメンド(紹介)する機能です。接客していると、あまり購入意欲が高くないお客様から「こういう物件だったら買います」といったことを言われることがあります。これまでなら、アナログ的に見込み帳に記入して、そのまま忘れてしまっていました。それをポップアップでエージェント(営業担当社員)にわかるようにします。
不動産の販売業務は分担して部下にやらせたり、ローンの計算はローン課に投げたり、いろんな人たちに手伝ってもらっていました。しかし、Techシリーズを使えば、これまで3人かかっていた業務を1人で販売することができるようになりました。
『Tech Supplier』は仕入れシステムです。ウチには毎日何百枚というマイソク(不動産物件チラシ)が来ます。これまでは仕入れの担当の社員が、チラシを見て、物件の善し悪しを判断していました。しかし、これでは担当する社員によってばらつきがでてしまいます。
それに、「1カ月前に同じような物件がすぐ売れた」といった情報も連動していないので、結局は勘で動いているんです。『Tech Supplier』ではマイソクの画像を認識して自動でデータベースに登録し、どんな物件が市場に多いかとか、仕入れた物件がどれくらいの期間で売却できたのかなども自動で分析できるシステムです。
ただし、マイソクを自動でリスト化するのは簡単な話ではありません。というのも、(通常のビジネスドキュメントと違い)チラシのフォーマットが決まっていないんです。右下の物件価格があって、その上に住所があってと、どれも同じにみえて、実はバラバラなんです。だからAIを使って、分析してリスト化しています。
過去の成約事例を元に、マイソクの物件情報を売れ安い順に表示するよう仕組み化されています。そこで、マイソクの段階である程度この物件は「売れるか」「売れないか」を瞬時に判断できるのです。
当社は実際に物件を販売しているので、契約までのデータを持っているんです。どの物件がどれくらいで売られていて、それが実際にどれぐらいの条件で売れたのかのデータベースと紐付けることによって、次にどんなものを仕入れたらスムーズに売れるかまで分析できる。その点ではポータルサイトとは別の良い情報をもっているといえます。
今までは勘で売れていたものがデータ化されて、システムが判断していけば無駄な仕入れがなくなる。そこまで想定して、取り組んでいます。
そして、すべての顧客データと物件データを紐付けて、『Tech Management』を使って管理します。これまでは、顧客担当・仕入担当が別々に動いていて効率が悪かったものが一元管理できます。
契約書の自動作成機能、謄本データの自動読み込み、売却後の管理状況や入金確認などもできます。
これは販売する不動産会社だけではなく、投資用不動産を買ったお客様にも提供します。『Renosy Insight』というスマホアプリをつくりました。契約書データをPDFで確認できたり、物件の運用情報を見たりすることができます。契約の時はエージェントを挟みますが、それ以外はテクノロジーでカバーして効率化していきます。
―不動産売買を主力にする企業ならではのアプローチを追求しているということですが、注意していることはありますか。
不動産テックに関しては、やはりアメリカの進歩が早い。いろいろ調べてるなかで、見えてきたものがあります。それは、アメリカのエンジニアは、ユーザーへのヒアリングができていることです。アメリカでは徹底的にユーザーファーストなプロダクトを作ろうという意思があります。だから、当社でも不動産を買っていただいたお客様や、当社のプロダクトを使っていただいた企業に徹底的にヒアリングするようにしています。そのために、月に1回GAテックパーティを開いています。
これは社員の人脈形成という目的とお客様のエンゲージメントを高める事を目的としています。お客様からプロダクトに対して意見をもらっています。
エージェント(営業社員)とエンジニアが一緒にお客様に会いに行ったりもしています。エンジニアは人に会いたがらない傾向がある。サイバーエージェントやビズリーチでは、エンジニアと営業社員のフロアをわけていました。当社もそうしていたんですが、エンジニア側からエージェントの近くで仕事がしたいという意見がでてきたんです。一緒にプロダクトを良くしていきたいと考えているんですね。2016年頃からその姿勢が生まれました。エージェント側(営業社員側)もなかなかエンジニアに対して意見を言いませんでしたが、言えるような環境が作れてきた。全社員でプロダクトを作らないといけない、と言い続けて、そういう風土ができるまで1年かかりました。
何度もいいますが、当社はネットとリアル(実際の不動産販売)の両方やっている事が強みだと思うんです。両方やっているから、伸びていける方向があるはずです。そこを模索していきたい。
―今後、システムを他社に売ることは考えていんでしょうか。
考えています。SaaS(Software as a Service:必要としている機能だけを利用できるようにするソフトウェアの提供方法)の形で、提供を考えています。当社は東京と大阪に拠点があり、この5月から名古屋に拠点ができました。それ以外の地域に関しては、SaaSでビジネスをやっていきたいと考えています。
―先に挙げた、4つの課題が解決されれば不動産業界はどうなりますか。
不動産流通のあり方として、個人間売買が大きくなってくると思います。ただ、不動産の取引において10年も20年も先を行っているアメリカにしても、個人間売買は10%にも満たないそうです。ただ、いずれは個人間売買の数字は増えていくでしょう。
もっと先を考えれば、不動産の権利がどんどん小口化していくと思います。小口化された不動産をブロックチェーンで管理するような事がすすむのではないでしょうか。できればグローバルで、活性化させることができれば面白いと思います。
シェアという流れもあると思います。自分が買った物件を、1カ月ごと、半年ごとに引っ越すようになる。そういった事が時間軸は分からないけれども起こると思います。
こういった大きな変化がどのタイミングで起きるかは、わかりません。でも、テクノロジーで変わらない業界はありません。
AIによって弁護士や税理士はいなくなるといわれているのに、この業界だけ変わらないということはあり得ません。
―今後の展望を教えてください。
不動産業だけをやりたいわけではありません。「建設業もやっていて、リノベーションのコンテック(Construction-Tech)、不動産も保険の一部ですからインシュ・テック(Ins-Tech)、当然金融のフィンテック(Fin-tech)。」不動産を中心にして、その周辺のアナログな領域にテクノロジーを掛け合わせていくことを当社の目的にしたいです。不動産だけにとらわれません。10年後には、不動産をやめているかもしれない。
もっと手前の話ならば『Renosy』というプラットフォームのUI・UXを改善していって、「中古不動産を買うなら『Renosy』だ」と思ってもらえるようになることです。
Amazonでは何でも売っていますが、不動産だけ売っていません。おそらく、高額商品であるということと、宅建業法の問題があるからです。じゃあ我々はAmazonが売らないもの、やらないことを全部やっていきたい。『Renosy』のプラットフォーム上では家が買える、リノベーションできる、投資ができる、物件の管理ができる。将来的にはクラウドファンディングができる。そういう未来を目指しています。