遠くない将来、不動産テックによって不動産ビジネスは劇的に変化すると言われている。これまでの商慣習や仕組みごとかわり、無数の新ビジネスが生まれるかもしれない。
不動産テックに関連する企業経営者や行政機関などに取材し、不動産テックによって不動産ビジネスがどう変わっていくのかを考えてみる。
今回はAI(人工知能)による無料不動産査定サービス『HowMa』(ハウマ)を提供するコラビット浅海剛(あさみ つよし)代表に話を聞いた。(リビンマガジンBiz編集部)
住宅売却時に感じた業界の闇
「息をするように嘘をついている業界だと実感しました」
そう語るのは、コラビット(東京都港区)浅海剛代表だ。
2013年、当時技術責任者を勤めていた企業が買収され、自宅のあった横浜から東京都内に職場が変わった。通勤時間などから、それまで住んでいた横浜の戸建て住宅を売却することを検討することにした。複数の会社に物件査定を依頼したのだが、各社の査定額に大きな差があり、中には購入した時より高い価格を提示した会社もあったという。
よく調べてみて驚いた。
「専任媒介を結びたいがために、査定価格をつり上げている不動産会社がいるということを、その時に知りました」(浅海氏)
(撮影=リビンマガジンBiz編集部)
業界の商慣習が、消費者に不信感を募らせる原因になっていた。不信感を持つ原因の1つは、消費者が持つ不動産に関する知識や情報が足りないからだと浅海氏は考えた。レインズや媒介契約、仲介手数料の仕組みを知らないばかりか、それを知る機会もないのだ。
「不動産の正確な価格を把握するだけでも、不動産会社と対等に交渉できる1つの方法だと考えました」(浅海氏)
AIによる査定サービス『HowMa』の誕生
その結果、2015年に生まれたのがAI(人工知能)による不動産査定サービス『HowMa』だ。自宅を登録すれば、AIが売却査定価格や賃料査定を算出する。しかも、「専任媒介のための高値査定」などの不動産会社の思惑は関係ない。また、一度登録した物件は自動的に査定し続けられ、景気変動などによる物件価格の推移を知ることができる。
家を購入してから今までで浮いた家賃を自動計算し損得を可視化する機能や、AIよって将来の価格を予測する機能がついており、ユーザー自身で売り時を知ることができる。
浅海氏自身、『HowMa』を使って自宅の売却を進めた1人だ。2017年、長年住んでいた横浜の戸建てを売却した。査定額と、実際の売却価格には10万円の差しかなかったという。
最近では、実家を登録するユーザーも増えている。将来的な相続や整理の準備として利用しているケースが多いのだ。
「これまで不動産会社に相談しなければならなかったことが、ネット上で行えるのはユーザーにとってラクなんだと思います」(浅海氏)
利用が増えてデータが集まれば、さらに査定額は正確になるという。
AIによる物件査定が主流になっていくと、不動産会社の専売特許だった物件査定という業務がなくなる可能性もあるのではないだろうか。
浅海氏は「不動産会社はなくならない」と語る。「ただ、業務は変化するはずです」。
では、どういった不動産会社が生き残るのだろうか。
これからの不動産会社はサービス性を重視される
浅海氏は「良いサービスや上手にコミュニケーションがとれる会社は残っていく」という。
「AIは定量的な数字(物件価格や賃料)を提示することは得意ですが、人の心の機微は分かりません」(浅海氏)
例えば、不動産売買において、どうしても資金が足りない購入検討者と、売主を仲介する場合だ。AIで正確な数字が分かっていても、最終的にいくらで取引するかは当事者間で取り決められる。そういった際に、間を上手に取り持つような動きができる不動産会社は今後も活躍の機会は十分にある。
必要なのは交渉力というわけだ。
(撮影=リビンマガジンBiz編集部)
また、AIが収集できない情報を持っていることも重要だという。例えば、地域に関する情報や、人と人とのコミュニケーションで生まれる要望や希望だ。これらは機械によって集計することはできない。そういった情報や要望に対応できる不動産会社は今後も存在価値があるのだ。
「AIによって、不動産プレイヤーがいなくなるわけではありません。ただ、業界は大きく変わる」(浅海氏)
今から20年ほど前、不動産ポータルサイトが登場したことで、不動産業界は集客方法が大きく変わった。
今度は真に必要なサービスの追求や接客技術の向上で差がつくのなら、消費者にとって歓迎される変化になる。
浅海氏は語る「価格や物件情報が誰にでも分かるようになると言うことは、どの会社に仲介を頼んでも本当の意味で同じになるということです。そこでの差別化は、『いかに気持ち良く取引できるか』といった数字で計ることのできない部分になると思います」。