遠くない将来、不動産テックによって不動産ビジネスは劇的に変化すると言われている。
これまでの商慣習や仕組みごとかわり、無数の新ビジネスが生まれるかもしれない。
不動産テックに関連する企業経営者や行政機関などに取材し、不動産テックによって不動産ビジネスがどう変わっていくのかを考えてみる。(リビンマガジンBiz編集部)
登記簿のデータ分析で不動産・金融営業
トーラス(東京都千代田区)が提供している「不動産レーダー」は、全国の登記簿謄本情報を早く簡単に取得できるサービスだ。大都市圏を中心に、膨大な量の登記簿情報をデータベース化している。地番や用途、登記目的を知ることはもちろん、所有者の変更など異動情報の検索もできる。また、物件概要とエリア、条件などを組み合わせて検索することで、「都内で10筆以上の土地を持つ地主」などの情報を収集することも可能だ。過去に一度取得した登記簿情報に変化があったかどうかは、無料で参照することができるサービスも準備中だ。
これまで不動産会社が地道に足を使い集めていた物件オーナーや空き家の情報を、不動産レーダーならば効率よく収集することができる。
「いつ」「どこで」登記に差押や抵当権が設定されているのかを過去にさかのぼって調べることもできる。例えば2014~2016年の金利が高かった時代の抵当権情報を取得し、住宅ローンの借り替え提案に活用している金融機関もある。
不動産会社だけでなく金融機関の利用も多く、不動産テックとフィンテックの中間に位置しているユニークなサービスと言えるだろう。
不動産会社においては、日々の業務において欠かせない登記簿、それらの情報を大量に収集し、ビックデータ化することで、これまでにないビジネスチャンスが生まれているわけだ。
同社を率いる木村幹夫氏は、会社経営のかたわらで様々な研究会合にも参加している。今年4月には国連で日本の産業政策に関する試案を発表するという注目の経営者だ。
木村氏は不動産テックによって不動産ビジネスがどのように変化すると予想しているのだろうか。
不動産業界の電子決済が進むエストニアで学んだもの
木村「今後の不動産ビジネスを予想することは簡単ではありませんが、ここ数年で大きなヒントになる体験がありました。昨年、エストニアへ訪問したことです。
エストニアの首都タリン(画像=Pixabay)
バルト三国の1つであるエストニアは、面積45,230 km²と九州ほどの土地に、人口131万人が住んでいます。世田谷区と渋谷区の人口をあわせた程度の小さな国です。資源もなく過去にはなんども周囲の国から支配された歴史を持ちます。そのエストニアが世界最先端の「電子政府」を持つ国として、注目されています。
その名の通り、行政サービスの99%がオンラインによって完結するんですね。例えば、法人登記や納税、教育などに関するサービスをインターネットで速やかに手続きすることができます。役所の窓口に並ぶことはありません。
日本のように引っ越したら、住所変更のために平日に仕事を抜け出して届出に行くということもありません。政府のホームページ「エスティー」にアクセスすればいつでも届け出ができる。驚くほど効率的です。
これを可能にしたのが、「X-Road」と呼ばれる技術です。あらゆる情報や各行政機関、医療機関を連携することで、作業をワンストップで完了させることができるそうです。また、セキュリティ面にはブロックチェーン技術(分散型台帳)を応用することで、様々な分野でのコスト削減に成功しているようです」
エストニア訪問の様子(画像=トーラス提供)
「何にもない」はチャンスになる
木村「その電子政府が生まれる背景には、91年の独立が関係しています。ソ連崩壊によって、必要なインフラが足りないまま独立したことで、1から行政機能を構築することになり、旧来のやり方にとらわれない先進的なやり方に取り組めたそうです。
もう一つ、エストニアがIT先進国になった理由があります。ネット通話として世界中で使われているスカイプです。スカイプのサービスがエストニア発のITベンチャーとして世界市場で受け入れられ、マイクロソフトに買収されました。巨額の資金を得たスカイプのメンバーはそのお金を若い企業に投資し、先進的なITサービスやバイオ技術が生まれているそうです。こうした動きをエストニアではスカイプ・マフィアと呼んでいます」
不動産テックに必要な2つの視点
木村「こうしたエストニアの事例から学んだこと2つあります。一つは、日本の不動産業界はIT化と情報公開が遅れていると言われていますが、そのために、ドラスティックな変化が起こせる可能性もあるというわけです。不動産テックによる変革余地がたくさんあるのだから、旧来のビジネスに縛られず大きな視点で考えたいものです。
もう一つはグローバルマーケットを目指すことです。エストニアは国内のマーケットが小さいため、起業家は常に世界市場をみながら行動するそうです。見習う部分は大いにあると思います。
2つの大きな視点を見失わずに、不動産テックについて考えてみたいと思います」
木村氏は、エストニアでの体験から、不動産テックによる変化を大きな視点で考えることが必要と気づいたという。さらには不動産業界のIT化、情報公開の遅れもチャンスに感じられるようになった。しかし、不動産ビジネスには日本独自の商習慣が多い。さらに不動産ビジネスは国によって違う法制度が大きく関係してくる。そうしたことを踏まえながら、次回はトーラスのサービスがどのように不動産ビジネスを変えていくのかに迫る。