2017年上半期の上半期を騒がせた「急増している節税対策のためのアパート・マンション建設」の問題について、弁護士法人リレーション 川義郎代表に解説してもらった。

(リビンマガジンBiz編集部)

アパートの建築現場 (画像=写真AC) 平成29年上半期のニュースから、今年急増している「節税対策のための賃貸建物の建築」に関する問題点をまとめて取り上げてみたいと思います。 賃貸建物建築に関わる問題

■金融機関・業者の問題

銀行や信用金庫などの金融機関から「賃貸住宅を建ててみませんか?」という提案を受けたことがありますか? 金融機関は今、資金を安定して運用できるところを探しています。

彼らにとって、担保権の設定のない土地をお持ちの方はとても「良いお客様」です。

なぜなら、外部から入ってくる賃料収入で資金返済を行うことができ、仮に返済が滞った場合でも土地・建物の任意売却や、競売などにより債権の回収を図ることができるという点でリスクが少ないからです。

安定した賃料収入さえ確保できていれば、みなさまにとっても良い資産運用です。

しかし金融機関は、金利計算は得意ですが、オーナーが「継続的に安定した賃料収入が得られるか」という点や、「建築業者が瑕疵のない建物を建てることができるか」という点については、専門ではありません。

そのため「予想された賃料収入が得られない場合」や、水漏れや手抜き工事など「建物の瑕疵による建築業者とのトラブルが生じた場合」は、金融機関は全く当てにすることできないばかりか、借り入れた資金の返済を迫ってくることとなります。

・1/13 Livedoor’NEWS『賃貸マンションの「格差」拡大中 建設人気のウラに潜む落とし穴』 http://news.livedoor.com/article/detail/12494031/

・4/23 日本経済新聞『アパート融資とは 相続税対策で需要急増、銀行が力』 http://www.nikkei.com/article/DGXLASDC22H21_S7A420C1EA2000/

これは、上記ニュースでも、報じられてれいます。

■建物の維持管理費の問題

建物は、日常清掃や照明器具などの日常的な備品の交換や、一定の時期ごとの大がかりな清掃が必要なだけではなく、建てた瞬間から劣化が始まります。

賃貸建物の建築については竣工時が完成なのではなく、むしろスタートと考えなければなりません。

賃貸建物の維持管理を熱心になさるオーナーの方も稀にいらっしゃいます。そういうオーナーの建物は常に掃除が行き届いており、廊下などの共用部分に借主の方の私物が散らかっていることもありません。建物のちょっとした変化にも敏感ですし、自分でできない作業に長けた業者の方もご存じです。

これに対し、一般のオーナーはそこまでの維持管理をすることができません。そのため、基本的には維持管理を他人に任せなければなりません。 ここで注意が必要なのが、金融機関が作成する借入資金の返済表には、維持管理の費用が計上されていないことが多く、その費用が見過ごされがちということです。 そのため、一般のオーナーは維持管理費用の支出に対する心理的負担感が大きく、倹約することとなります。

それは、最終的に建物全体の早期劣化を招いてしまうことがあるようです。

■賃貸管理の問題

最近、クローズアップされているのが建物の賃貸管理の問題です。

金融機関は融資の貸付を行いたいがため、空室率を低く想定するし、賃料収入による利回りを高く想定しがちです。

その問題の1つとして、上記のような経常費用の倹約化を招いてしまいます。また、空室率が想定よりも高くなった場合、賃料だけでは毎月の返済資金を賄えず、自己資金を投入せざるを得ない、という問題が生じます。

オーナーとしては、賃貸物件経営の利点の1つである「毎月の賃料収入が得られる」ということにも期待して賃貸建物を建築したため、強いストレスを感じます。そうなると、日常の維持管理にかける費用は削減されます。結果的に、賃貸建物の「スラム化」が生じることとなります。

加えて、賃貸建物では借主による賃料の不払いがつきものです。支払われなくても収入として計上しなくてはならないため、所得税の課税対象になります。

しかし最終的に貸倒れとして損失計上できない場合もあります。 近時では「業者が一括借り上げしてオーナーに賃料を支払う契約(サブリース契約)であったところ、空室率が高いことから業者が解約権を行使して、オーナーが期待していた賃料の支払を受けられなくなった」、という事例が報道されています。

・5/4 東京新聞『アパート一括借り上げ「サブリース契約」 賃料減額 業者とトラブル』 http://www.tokyo-np.co.jp/article/living/life/201705/CK2017050402000186.html

・3/21 全国賃貸住宅新聞『レオパレス家主の集団訴訟が審理開始』 http://www.zenchin.com/news/2017/03/post-3214.php

オーナーと、管理会社をめぐるトラブルは、今年に入ってからも何回か報じられています。

(画像=フリー素材ドットコム)

■その他の問題

報道によると「金融機関が建築資金を融資する一方で、建築業者から「仲介料」の支払を受けていた」、という事例があるようです。

これは、建築資金の大部分を金融機関から借り入れるため、借入れの際の負担感が少ないことに乗じ、建築業者は建築代金に仲介料を上乗せしてオーナーに請求していた、という問題です。あくまでも一部の金融機関に過ぎないと信じたいところですが、結果としてオーナーが金融機関の「食い物」にされていたといわざるを得ない事例です。

・4/23 日本経済新聞『アパート融資で利益相反か 建築業者から顧客紹介料』

http://www.nikkei.com/article/DGXLASDC22H1M_S7A420C1MM8000/

また、最近私が経験した事例では「金融機関が抵当権の設定を受けていた不動産から融資金額を満額回収するために買主に融資することを条件として、買主の希望金額よりも売買代金を上乗せして買い取らせた」というものがありました。

■対処法

今回お伝えした問題に遭遇しないために、土地の持主としてはどういうことに気をつけたら良いのでしょうか。

それは、持主を支える「チーム」を作ることです。賃貸建物を維持して収益を上げて行くには、さまざまなスキルが必要です。最低限、経理関係の相談に乗ってもらえる税理士・会計士がいないと、収益が上がっているのかがわからないでしょう。

また、賃貸借契約を初めとする契約関係のチェックや、トラブル対応のためには、相談できる顧問弁護士がいた方が安心です。いったんトラブルが発生すると、膨大な時間と、場合によっては高額の支出を余儀なくされる場合があります。顧問弁護士は、そのリスクを防ぐための保険であるともいえます。 それから、建物を管理してくれる業者とお知り合いになるとよいでしょう。

いくつかの業者にお願いしているうちに、自分と相性が合う業者の方に巡り会えるはずです。

注意しなければならないのは、金融機関と建築業者です。建築業者にとって利益を出せるのは建築時です。そのため、竣工さえしてしまえばその後のアフターサービスを行わない業者もいるようです。

まとめると、賃貸建物の建築・運営はさまざまなスキルを要するビジネスです。

しかも、銀行からの借入額も億単位とならざるを得ません。土地をお持ちの方が、賃貸住宅の経営に乗り出すことについてはその人の経営判断ですが、金融機関や建築業者の甘言をうのみにすると後で痛い目を見る恐れが高まります。

最後の決断をする前に「自分のことを大事にしてくれる「チーム」を作り、自分に欠けているスキルを補う」という作業が必要です。

 
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