こんにちは。弁護士の大西敦です。

 眺望について、眺めのいいマンションを購入したところ、その販売業者が近隣にマンションを建設、その結果、マンションからの眺めが悪くなったという事例は最近よく見られます。

 眺望侵害に対する考え方はここ2回のコラムでご説明したとおりですが、眺望侵害の原因が自らが所有するマンションの販売業者である場合には、別個の論点が問題になります。

 マンション販売時に、すでに近隣におけるマンション建設を計画していたような場合にはその計画について説明義務が問題になりますし、そのような計画が存在しなかったとしても、眺めがいいことを売りにしてマンションを販売しておきながら、眺めが悪くなるようなマンションを建設することが許されるのかという問題もあります。

 ここでは、裁判例を紹介しながら、これらの問題についてご説明したいと思います。

1 東京地方裁判所平成18年12月8日判決


 室内から隅田川花火大会を鑑賞できる分譲マンション1室を購入した原告らが、その販売業者が近くに別のマンションを建設したことによって、花火を見ることができなくなったとして、販売業者を被告として、損害賠償請求を行ったという事案です。

 判決は、原告らはその部屋の花火の観望という価値を重視し、これを取引先の接待にも使えると考えて購入していること、そのことを被告も知っていたこと等を考慮し、被告は原告らに対し、信義則上、同室からの花火の観望を妨げないよう配慮すべき義務を負っていたとして、慰謝料請求を認めました。

 もっとも、判決は、花火を見ることができなくなったことによって、居室の価値が下落したとの原告の主張が退けています。

 これは、販売業者において、購入者が眺望を重視していたことを認識したことによって、眺望に配慮すべき義務を負うとしたものです。

 判決によれば、販売業者は隅田川花火大会が見えることを売りにしてマンションを販売したわけではないようですが、購入者の希望を聞いてしまったために、眺望に配慮すべき義務を負ってしまうというのはやや酷なようにも思えます。なお、マンション建設の際、販売業者は、他の居住者には5万円ないし10万円程度の金員を支払っています。

2 大阪地方裁判所平成20年6月25日判決

 

 超高層マンションの高層階の居室を購入した原告らが、分譲業者である被告らに対し、被告らがその分譲後に約82.5m離れた場所に別の超高層建築物を建設した結果、居室からの眺望が悪くなったとして、眺望に関する説明義務違反に基づく損害賠償を求めた事案です。

 判決は、分譲業者が眺望をセールスポイントにしていたことは認めつつも、原告らが、被告らから重要事項説明を受けるなどして同所に超高層建築物が建設される可能性があることを知っていたなどの事実関係の下では、被告らに説明義務違反はないとして、損害賠償を退けました。

 

 この判決は、眺望について、「眺望利益なるものは、建物の所有者ないしは占有者が建物自体に対して有する排他的、独占的支配と同じ意味において支配し、亨受しうる利益ではない。元来風物は誰でもこれに接しうるものであって、ただ特定の場所からの観望による利益は、たまたまその場所の独占的占有者のみが事実上これを亨受しうることの結果としてその者に独占的に帰属するにすぎない。したがって、眺望利益は、特定の場所がその場所からの眺望の点で格別の価値をもち、このような眺望利益の亨受を一つの重要な目的としてその場所に建物が建築された場合のように、当該建物の所有者ないし占有者によるその建物からの眺望利益の亨受が社会観念上からも独自の利益として承認せられるべき重要性を有するものと認められる場合に限って、法的に保護される権利となるものと考えられる。」としており、従前からコラムで紹介してきたとおり、眺望に対する法的保護の範囲はかなり狭いものと考えられます。

 そして、この判決は、説明義務違反に対する判断であり、上記の東京地裁判決とは、損害賠償を求める理由が一致しているわけではありませんが、東京地裁判決と比較して、購入者に厳しいという印象を受けます。

 眺望の問題と説明義務違反の問題は、非常によく見られる問題です。説明されていたような眺望とは異なる眺望であった場合、予期していなかったような眺望があり(例えば、電柱が見えるといった問題です。)、業者が説明義務違反を問われることはよくあります。

 次回のコラムでは、この点についてご説明したいと思います。

 
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