こんにちは。弁護士の大西敦です。

 

 前回のコラムでは、賃貸借契約において、賃貸人による更新拒絶ないしは解約の申入れが認められるためには、「正当事由」が必要であること、「正当事由」の有無は、①賃貸人及び賃借人が建物の使用を必要とする事情、②建物の賃貸借に関する従前の経過、③建物の利用状況、④建物の現況、⑤賃貸人における財産上の給付の申出を考慮して、判断されることをご説明しました。(/column/onishiatsushi/19347/



1 建物の使用を必要とする事情(賃貸人側)

 建物の使用を必要とする事情は、正当事由を判断する上で重要な判断要素となります。

 類型的には、大きく①居住の必要性と②営業の必要性に分けられます。居住用物件に関するものか、営業用物件に関するものかということです。

 

 まず、居住の必要性についてですが、文言通り、賃貸人において当該物件に居住する 必要性があるということです。
 ただ、これだけで正当事由が認められることはあまりありません。そもそも、賃貸人 には他の住居があったわけですし、家賃も得ていますので、例えば、賃貸人が経済的に相 当程度困窮しているといった事情がない限りはこれだけで正当事由が認められることは ないと言えます。
 この他に、現時点では住まいを別にしている親族を住まわせるために、更新拒絶、解約申入れを行うことがありますが、あえて当該物件に住まなければならない事情がない場合には正当事由としては認められにくいと思います。

 次に、営業の必要性については、当該物件を自分で使用する、売却する、建て替えるといったことが挙げられます。
   物件を自分で使用するというのは、使用目的や用途等によりますが、正当事由としては比較的弱いと思います。営業の必要性ということになれば、賃借人における営業の必要性との比較になるわけですが(これは居住の必要性でも同様ですが)、賃貸人における営業の必要性が賃借人における必要性を上回ることはあまりないように思います。
   売却のために賃借人に出て行ってもらいたいというのは、よくある事例ではありますが、賃貸借契約が継続していても売却自体は可能なので(もちろん、店子が入っていることで買い手が付きにくかったり、売買代金が抑えられることがあることは言うまでもありません。)、正当事由にはなりにくいと思います。
 取壊し・建替えについては、老朽化による場合と、規模の大きい建物を建築する、周 辺の土地とともに再開発をするということに分けられます。老朽化については、「④建 物の現況」の問題にもなりますが、正当事由が認められやすい事由と言えます。規模を大きくする、再開発をするといった事情は立退料と引き換えに正当事由が認められることが多いと思います。

2 建物の使用を必要とする事情(賃借人側)
   

 賃借人側においても、建物の使用を必要とする事情は、大きく①居住の必要性と②営業の必要性に分けられます。
    
  居住の必要性についてですが、通常代替住宅が見つからないということはあまり考えられませんので、立退料の支払いによって正当事由が認められることが多いと思います。
    
   営業の必要性については、賃借人にとってはかなり大きな事情であり、正当事由が否定されたり、相当額の立退料を支払うことによって正当事由が認められる事例が多いと思います。
   賃借人側としては、その店舗及び営業に多額の金員を投資しているような場合、長年営業して相当数の顧客がいる場合、その業種が立地に大きく左右されるような場合、移転に多額の費用を要する場合、移転が困難な業態であるような場合には、正当事由が否定される事情になりますし、立退料が増額される事情になります。

     
3 建物の賃貸借に関する従前の経過
   

 従前の経過としては、契約締結時の事情、事情変更の有無・内容、契約中の事情があります。もっとも、従前の経過は、上記の「建物の使用を必要とする事情」に比較して付随的な要素になると思います。
  

 契約締結時の事情としては、もともと、短期間で終了することを前提に契約を締結した場合、例えば、転勤から帰ってくるまでという話を前提に契約が締結された場合は正当事由が認められる方向に傾くと思います。
   また、設定された賃料が、相場よりも安い場合には、正当事由を肯定する方向に働きます。
 

 事情変更としては、例えば、上記のように転勤から戻ってくるまでを前提にして契約を締結したものの、戻って来てからも契約が継続し、更新を繰り返したような場合があります。このような場合は、正当事由を否定する方向に働くと思います。
   

 契約中の事情としては、賃料の不払いや無断増改築といった事情があり、このような事情がある場合は正当事由を肯定する方向に働きます。そもそも、賃料不払いが継続しているような場合は賃貸借契約を解除すればよいということになりますので、解除事由とまでは認められない程度の背信的な事情になるのではないかと思います。

4 建物の利用状況
  

 これは文言通り、当該建物をどのように利用しているかということになりますが、「① 賃貸人及び賃借人が建物の使用を必要とする事情」、「②建物の賃貸借に関する従前の 経過」の中で考慮されることが多いように思います。

5 建物の現況

 
 正当事由の判断における「建物の現況」とは建物の老朽化によって、取壊し、ないしは修繕の必要性が生じている状態であるかどうかということになります。そもそも、建物が耐震基準を満たしていないという状態もこれに含まれると思います。
   建物の現況を理由とする更新拒絶、解約申入れは、立退料の支払いによって正当事由が補完される事例を含めた場合、かなり認められやすいと言えます。
   最近では、耐震検査をした上で(更新拒絶や解約申入れを前提に検査をすることが多いと思います。)、更新拒絶や解約申入れをすることが多いと思います。

6 賃貸人における財産上の給付の申出
  

 これは立退料の問題です。
   立退料は、その支払いをすれば必ず正当事由が認められるというものではなく、正当事由を補完する要素として考えられます。
   よく立退料の相場を聞かれることがありますが、このように算定しなければならないということが決められているわけではありませんので、なかなかお答えしにくいのが実状です。
  

 最も算定方法や算定要素については、実務上多く取られているものはありますので、これらについては次回のコラムでご説明したいと思います。

 
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