こんにちは。弁護士の大西敦です。
前回のコラムでは、マンションの漏水事故、特に賃借人として居住する場合についてお話しました(/column/onishiatsushi/19083/)。
今回は所有する部屋から水漏れが発生した場合の法律問題についてお話したいと思います。所有するマンションの一室を賃貸に出していた場合、占有者は賃借人であり、賃貸人たる所有者は占有者ではありません。
この場合は、所有者としての損害賠償責任が問題になります(所有者が居住していた場合には、所有者は占有者としての立場も兼ねるということになります。)。
繰り返しになりますが、民法717条は以下のように定めています。
(土地の工作物等の占有者及び所有者の責任)
民法第717条
1 土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。
2 前項の規定は、竹木の栽植又は支持に瑕疵がある場合について準用する。
3 前二項の場合において、損害の原因について他にその責任を負う者があるときは、占有者又は所有者は、その者に対して求償権を行使することができる。
例えば、給排水設備の瑕疵による漏水が発生した場合、①一時的には占有者が賠償義務を負うことになりますが、②占有者が相当な注意をしている場合には所有者が損害賠償責任を負うことになります。
これは、無過失責任です。仮に、給排水設備の瑕疵について、所有者に何らの過失もなかったとしても、所有者は損害賠償責任を免れることはできないということになります。
所有者が損害賠償責任を負うことはご説明したとおりですが、その場合には賠償すべき損害の範囲が問題になります。
漏水事故によって、階下の居室に浸水し、居室そのものに損害が生じた場合(例えば、天井や壁において貼り替えが必要な場合が考えられます。)、その修繕費用は被害者に生じた損害ということになります。
次に、階下の居室に浸水したような場合には、家具や電化製品に損害が生じることがあります。
その場合に賠償しなければならないのは、当該家具や電化製品の時価相当額です。このような事案では新品の購入費用が請求され、争いになることがよくあります。
家具や電化製品は購入時から時間の経過や使用によってその価値は減少していきますので(これは交通事故によって、車両が損傷を受けたような場合にも同様に考えます。)、新品の購入費用までは認められません。
その他に、修繕工事をするためにホテルへの宿泊を余儀なくされた、被害に遭った部屋が賃貸物件で賃料が減額となった、賃貸借契約を解約された、一方、賃借人の立場からは引っ越しをしたということで、これらの費用が問題となることもあります。修繕工事に対応するため仕事を休んだとして休業損害を請求される場合もあります。
もちろん、請求通りに支払わなければならないものではありませんが、修繕費用も含めて高額の賠償責任を負うことも決して珍しいことではありません。
対処方法としては、やはり保険に加入しておくことだと思います。損害賠償責任保険は複数ありますが、「法律上の損害賠償責任」について支払われるものであれば、所有者ないしは占有者の自己負担はありません。
一方、保険に加入していないということで損害賠償責任を問われるような場合には、その責任の有無及び損害の範囲について、取りあえずは弁護士に相談すべきということになろうかと思います。