こんにちは。弁護士の大西敦です。
今回は居住する部屋から水漏れが発生した場合の法律問題についてお話したいと思います。居住する部屋から水漏れが発生し、階下が浸水被害を受けたような場合には、その被害者に対する損害賠償責任が問題になります。
実はこれは最近私が住む賃貸マンションで発生した問題です。
ある朝、洗面台で水を出しながら歯を磨いていたところ、洗面台の下の方から水が漏れてきました。慌てて水を止めてキャビネットを開けたところ、キャビネットの中が水に濡れていました。
その日は土曜日で午前中に法律相談が入っていたため、月曜日に管理人さんに伝えようと思っていたところ、管理会社から携帯電話に連絡があり、私の階下に住む方から天井から水が漏れてくるとの説明を受けました。
その日の夕方、管理会社から依頼を受けた業者が確認に来ました。
業者が説明するところによれば、洗面台の配水管の中にあるホースが破れており、そこから水が漏れているとのことでした。破れた原因は劣化、老朽化とのことです。
その配水管は交換することになりました。洗面台以外の水道、トイレや浴室、洗濯機は使用しても問題ないとのことでした。
自らの居住する部屋から漏水事故が発生し、階下の部屋が損害を被った場合、民法709条の不法行為責任、民法717条の土地工作物責任が問題となります。
例えば、風呂の水を出しっ放しにして水が部屋中にあふれ、階下が浸水したような場合には、不法行為責任が問題になります。
一方、今回の事例のように、漏水の原因が配水管そのものにあるような場合には、土地工作物責任が問題になります。
ここでは、民法717条の土地工作物責任について、ご説明したいと思います。
【民法第717条】
1 土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。
2 前項の規定は、竹木の栽植又は支持に瑕疵がある場合について準用する。
3 前二項の場合において、損害の原因について他にその責任を負う者があるときは、占有者又は所有者は、その者に対して求償権を行使することができる。
717条1項は、土地工作物(水道の配水管は建物に附属していることから、マンションと一体であり、土地工作物に含まれるとされています。)からの損害については、占有者が賠償義務を負うと定めつつ、「損害の発生を防止するのに必要な注意をしたとき」は、その責任を免れると定めています。
今回の事例では、私はマンションの居室を借りて住んでいますので、「占有者」ということになります。
この場合、占有者に求められる「必要な注意」とは何かが問題になります。この点について判示した東京地方裁判所平成27年3月17日判決を紹介します。
この事案は、マンションの一室を所有する原告が、漏水の原因となった一室を所有する者(以下「被告Y」といいます。)と、マンション管理組合に対し、損害賠償を請求した事案です。管理組合が被告になっているのは、漏水の原因となったのがマンションの専有部分か共有部分かが問題になったからです。
このマンションは賃貸に出されていたところですが、判決は、占有者(賃借人)の責任については、①通常の用法に従い、使用していたこと、②所有者の了解なしに浴槽下及び浴室洗い場防水層の修繕等を行うことは困難であった、③漏水調査に立ち会い、協力していることから、損害の発生を防止するのに必要な注意をしたということができ、工作物責任を負わないとして否定し、所有者である被告Yの責任を認めました。
この東京地裁判決の考え方に沿った場合、あくまで通常の用法に従って使用していたということであれば、717条1項但書の「損害の発生を防止するのに必要な注意をしたとき」に該当し、占有者としての責任を負うことはないと言えそうです(上記の②、③は漏水発覚後の問題です。)。
土地工作物からの損害について、占有者が賠償責任を負わない場合、所有者が賠償責任を負うことになりますが、これは無過失責任です。
次回は、漏水事故の原因となった居室を所有していた場合、所有者としての賠償責任について、少しご説明したいと思います。