障害者も不便なく生活できるよう、公共施設のバリアフリー化が進んでいる。一方で住まいのバリアフリー化はまだまだ足りていない。なかでも問題なのは、住宅供給側の偏見のようだ。憤るアイリスコンサルティング野口代表が、今もなくならない差別の事例を紹介する。(リビンマガジン編集部)
障害者に対する偏見とその施策
国の福祉政策において障害者福祉は、この30年間に大きく前進した。しかし、まだまだ欧米の障害者福祉政策と比較すると及ばない。更に日本では、「障害者=社会不適者」という見解が長く続いていた。一部ではいまだに公然と障害者を侮蔑し差別する風潮が残っている。その象徴が2016年に発生した「やまゆり学園」での19人を殺害した凄惨な事件だ。社会全体で障害者に対する理解と支援を醸成する教育、そうした考えの普及がまだまだ不足しているのではないだろうか。
障害の幅は広いが、大きく身体障害、知的障害、精神障害に分けられる。これ等の人々は、健常者と比べ何らかのハンディを背負っており、日常生活に支障をきたしている。度合いにより判定され、障害者手帳が交付されている。これにより、社会は障害者を差別せず守り、支援する法的措置がされているが、まだまだ十分に機能していない。
障害者と住宅に関する問題を紹介する。
(画像=写真ACより)
最近の事例からの課題
1、A婦人(42才)—重度の身体障害者(車椅子)を抱える母親、賃借していたアパートの隣の駐車場が整備され約40cm(2段)の段差を乗り越える必要があった。大家にスロ-プの設置をお願いしたが、無視されたため知人に木製のスロ-プの作成を依頼し設置した。大家は「初めから障害者が住むと聞いていない。ここは障害者施設じゃない。邪魔だから撤去する」と言って廃棄してしまった。
2、B男性(34才)—中古マンションを購入し3カ月が経過して購入を仲介した業者に「重要事項説明違反ではないか」と訴えてきた。理由は「コンクリート壁を隔てた隣接住戸の住人が時々奇声を発することがあり、隣家にただしたら、重度自閉症者が住んでいることがわかった。これだったら初めから購入していない、子供の教育上も良くない。損害慰謝料を払い、買戻せ」と要求してきた。
(画像=写真ACより)
障害者施設の建設の事例
障害者を守り、仕事・生活支援の起点となる「障害者施設」は古くからある。しかし、国・自治体に予算の制限があり、運営費用などが大きく不足している。実情としては、古い施設は劣悪なものが多く、不衛生極まるものが数多く存在している。福祉施設で働く人の相対的な給与はまだまだ低い。
とある自治体が不足施設を補うため、10数年ぶりに障碍者施設を新設しようと3年がかりで用地を賃借することで所有者と合意した。約1,150㎡の土地に「知的障害者対象のグループホーム」を設計し、建設予定地に公告し、住民説明会を開くべく町内会を通じて通知した。
しかし説明会直前になって、付近の住民を中心に「建設反対」を表明し、市に抗議が来た。説明会時には、建設反対の張り紙がされ、聞く耳も持たない人が一部いた。
反対理由は、「なぜここなのか、広い土地は幾らでもある」「こんな町中に造らず山間にしろ」「子供が怖がって外に出ないのでは」「付近の土地の資産価値が落ちる、補償せよ」「絶対一人で外に出ない保証はない」「作るなら防音を含めたコンクリート壁3m以上を設置」「看板は障害者施設と判らない様なものにせよ」といったものだった。
以上の2つの事例から、賢明な読者はどう判断されるか、誰が、誰に、何をしなくてはならないのか、色々な差別が発生し、弱者と強者、貧者と富裕者、地域、人種、宗教・信条…。
もっと優しい、もっと住みよい、もっと心豊かな、もっと助け合う―社会を次世代のためにも風潮を高めたい。