今月の6日、法務省による相続登記の実態調査の結果が公表された。全国から抽出した10地区の土地約10万筆のうち、最後の登記から50年以上が経過しているものが大都市地域において6.6%、中小都市・中山間地域において26.6%にも上っていることがわかった。これらの土地では所有者が不明になっている可能性があるとのこと。なぜ、このようなことが起こるのだろうか。登記に詳しい西山ライフデザイン 西山広高代表に話を聞いた。(リビンマガジン編集部)
空き地 (画像=写真AC)
所有者不明の土地が多数ある問題は、東日本大震災で表面化しました。震災復興のため用地収用が必要でしたが、所有者がわからない土地の取得が大変難航しました。
上記以外にも、所有者が不明なことでどのような問題が起こるのでしょうか。この問題を解決する方法はあるのでしょうか。
なぜ所有者が不明になるのか?
はじめに、日本の登記制度について簡単にお話しします。
日本では、全ての不動産に所有者がいます。その所有者は国や地方自治体や、法人、個人と様々ですが、必ず誰かが所有していることになります。
不動産の所有者は、登記簿に記載されます。登記手続きは法務省の地方組織である法務局が管轄しています。登記手続きは個人(権利者本人)が行うか、司法書士が委任され代行します。最近では、司法書士に依頼すればオンラインでの登記申請もできるようになっています。
日本の不動産登記制度は、「登記には対抗力はあるが、公信力はない」といわれます。登記を行うことで、所有権や抵当権など、不動産上に存する権利を第三者に法的に主張することはできます(=対抗力がある)。しかし、たとえば登記簿上の所有権者が実際の所有者とは限らない(=公信力がない)ということが起こるのです。
なぜそのようなことが起きるのでしょうか。
日本の登記制度は、登記を「物権の効力」の発生要件としていません。つまり、当事者間で売買契約を締結したり、相続が発生した際に、登記手続きを義務にしておらず、手続きの期限もありません。このため、登記の名義と現在の所有者が異なるケースが発生します。
不動産売買では、一般的に売主・買主間で売買契約を締結したあと、金融機関や司法書士も同席のうえ、金銭授受と登記必要書類の交付が行われます。つまり、司法書士がそのまま登記手続きを行い、登記の名義が変更されます。
しかし相続の場合は、不動産売買時とは違い、「売主と買主」の様な利益相反する関係ではないことがほとんどのため、登記が行われないことがあります。仮に登記をしなくてもすぐに問題になることも少なく、現状では役所からお咎め(おとがめ)もないからです。
現在問題になっている「登記簿上の所有者が行方不明」のケースの多くは、相続に起因するものだと考えられます。
登記を行わないと、土地が売れない!?
このように、登記を行わなかったとしても土地の相続手続きは可能です。しかし前述したように、登記がないと第三者に対しては対抗力がありません。つまり、相続した土地は「相続人全員で共有しているもの」とみなされます。
のちに、その土地を売却するときや、土地を担保にローンを借り入れる場合には、事前に正式な所有者に変更登記しておく必要があります。
変更登記の際、遺産分割協議書や遺言書に記載されている人が全員ご存命であれば手続きはスムーズです。しかし、権利者(相続人)が死亡しており、そこでも相続が発生して、記載されている相続人が変わってしまっている場合もあります(実際の権利はその相続人に移っています)。そういったケースでは、改めて現在の関係者全員の署名と実印の押印がある同意書を作成する必要があります。このとき、関係者に面識がない、人数が多い、遠方に住んでいる、消息すらわからないなど、同意書の作成が非常に難しいケースもあります。
私が過去に関わったケースでも、13人の共有で登記されている土地について、おひとりの同意が得られないために売買ができなかったというケースがありました。
(画像=写真AC)
他にもある様々な弊害
他にも、所有者不明の土地や不動産は、様々な弊害を引き起こす可能性があります。
例えば、土地を購入するとき、買主は隣地との境界を確定したいと考えます。隣地との境界に関する紛争や、将来紛争が発生するリスクをなくすためです。そういった要望があった際、売主は隣地所有者と境界確認の立ち合いをすることになります。このとき、隣地の登記が変更されておらず、そこに誰も住んでいない場合、所有者を特定することは非常に困難です。隣地との境界の確認ができないと、土地の価格に影響したり、売買の話が進まなくなることもあります。
また、都市部でも「空き家」の問題が話題になることが多くなりました。なかには、全く管理されず草木が生い茂り、ごみが投げ込まれたり、動物などが住みついてしまったり、倒壊しそうになっている建物もあります。所有者不明の建物が隣地にあると、周辺環境の悪化を招きます。
加えて、周辺の開発やまちづくりのための公共事業などが計画されているところでは、その一軒だけが買収・収用の交渉ができない、といったことも問題になってきます。
このように、相続登記がされていない物件は自分や家族だけの問題でなく、広い範囲に迷惑をかけてしまう可能性があるのです。
まとめ
登記手続きは時間が経過するほど複雑・困難になっていきます。
法務省では「未来につなぐ相続登記」として、相続登記の手続の簡素化やその利便性の向上に取り組んでいます。土地所有者は、相続が発生した際には速やかに登記手続きを行うようにした方が安心です。
登記に関しては司法書士が専門家です(最近は登記に詳しくない司法書士もいるようなので注意が必要ですが)。信頼できる司法書士を懇意にしている不動産業者、不動産コンサルタント、金融機関などに紹介してもらうのもよいでしょう。