住宅街を歩いていると、時折大きな横断幕やのぼりが並んでいる一画に出くわすことがある。激しいフォントで「〇〇マンション建設断固反対!」や「住民激怒!」などの文字が並んでいる。周辺住民による新しいマンション建設に対する反対運動の横断幕やのぼりだ。


では、こういった反対運動は成功するのだろうか?また、どのような顛末を迎えているのだろうか?建設会社に勤務していた経験を持つ、西山ライフデザイン 西山広高代表に話を聞いた。(リビンマガジンBiz編集部)

(画像=リビンマガジンBiz編集部)

なぜ反対運動は起こるのか

マンション反対運動が起きる原因は景観や日照が阻害されることや、電波障害の懸念などを含めた、周辺環境の変化に対する抵抗がほとんどです。

「景色が変わる」「日照がさえぎられる」「ビル風が吹く」「街並みの統一感が崩れる」「できる建物が壁のようになり圧迫感が生まれる」というように建物そのものが周辺に与える影響のほか、「人通りや車通りが変わる」「ファミリー住戸が多いエリアにワンルームだけのマンションはそぐわない」「治安の悪化が懸念される」などのように、移ってくるマンション住民により発生する影響を懸念した反対運動などもあります。

マンション反対運動は成功するのか

では、実際にマンション建設の計画が「中止」や「見直し」になるケースはあるのでしょうか。

結論として、計画地とその周辺状況から客観的に判断し「あまりに影響が大きい」「受容できる限度を超えている」場合に「ごく稀に中止、あるいは見直しになることがある」程度だと思います。

建物の大きさが少し小さくなったり、着工が何か月か伸びたりということはありますが、計画中止や大幅な見直しになるケースはほとんどありません。

マンションデベロッパーや設計事務所は、当然マンション建設に関連する都市計画法や、建築基準法などの法律、計画地に関連する条例、場所によっては地域住民で定めて役所に届けられたまちづくりの協定などについても読み込み、その範囲の中で計画を進めます。そのため、仮に裁判になったとしても、反対住民の意見が法的に認められるケースは少ないからです。

また、裁判までもつれ込ませないよう、反対住民と交渉するノウハウが、デベロッパーにはあります。反対する理由が住人によって違うような場合、個々の関係者に個別の交渉を持ち掛けます。特に反対住民の中で一番影響が大きく、反対する根拠があると思われる住民と優先的に交渉します。

そこで合意すればその人は反対運動から外れるため、住民全体のまとまりも維持できなくなり、多くの反対運動が、計画の中止や大幅な見直しにまでは至らずに沈静化していくのです。最近は少なくなったようですが、昔は金銭での解決というケースもありました。

デベロッパーは営利事業としてマンションの建築を進めています。

土地の購入費、建物の建築費、広告費や諸経費などを合わせた金額よりもマンション販売総額を大きくしなければ事業として成り立ちません。多くの場合、すでに土地の購入は終わっているので後には引けない立場です。また、マンションの建設事業は、100戸のマンションなら、その利益は6・7戸分だといわれています。つまり、6~7%ほどです。反対運動によって階数が低くなる場合や、戸数が減ってしまうと利益がありません。もちろん計画の中止や大幅な規模縮小は、事業が成り立たなくなりますので是が非でも避けたいと考えるでしょう。

マンション反対運動が成功するケース

先述したように、デベロッパーや建設会社は入念な下調べをして計画を進めます。しかし、人間の行うことですので、ときには法や条例の規定に反する計画がなされていることがあります。

その場合は、計画見直しに持ち込める可能性が高まります。また、法や条例でも想定していない問題が発生することもあります。また、一部のデベロッパーの計画では、とにかく効率的に収益を上げるため、周辺住民にあまり配慮がなされていないように感じるものもあります。

以前、傾斜地に立てるマンションで、建築基準法上は地下として扱われ容積に算入されない部分にも傾斜を利用して住戸を作る計画がありました。周辺では3~5階建てしか建たないエリアに地下室を使って7階建以上の規模に相当するマンションが建設しようとしたわけです。これが問題視され、その後多くの自治体で傾斜地にマンションを作る場合の条例を相次いで制定しています。

詳細は「地下室 マンション」で検索すると、この問題について解説したサイトが見つかると思います。

反対住民が入念な「情報収集・調査」を行い、計画されている建物が関係する法規や条例に反していることが認められれば、当然それを根拠に見直しを迫ることがあります。また、何を勝ち取ろうとしているのかを具体的にし、そのために紛争に強い弁護士を探し、助言を求めることで成功するケースもあります。

多くの自治体で「中高層建築物の建築に係る紛争の予防と調整に関する条例」や「開発事業の手続きに関する条例」などを定めています。条例では、説明を行わなければいけない計画建物の規模や説明を要する範囲、標識の設置方法や、近隣住民への説明のタイミング、説明会の実施と報告の方法など、細かい規定があります。そういった部分を細かく理解していることは反対運動成功の最低条件でしょう。

建築反対と工事反対が同時に行われていることも?

反対運動には、建築だけでなく工事計画に反対する場合があります。大規模な工事になると周辺を大きな工事車両が頻繁に通ったり、工事中の騒音や振動が発生したりするなどの懸念があるため、近隣住民から反対運動がおこります。しかし、これはすでに工事を行うことを認めたうえでの交渉事です。

近くに学校や病院などがある場合には工事の「安全確保」が重要になります。工事期間中の周辺道路の通行止めや、工事現場への搬出入の方法などが問題になるケースもあります。しかしこれらは一時的な話であり、建設計画反対と一緒くたにして議論をすると、住民の意見がまとまっていないと捉えられることがあります。

そもそも反対運動が周辺の環境を阻害する場合がある

時には反対運動のための、のぼりや横断幕を掲げることが、景観を損ねていると感じてしまうくらい派手に出ていることがあります。また、その横断幕などに書かれている文言が過激で、根拠もなく法的に問題がある(名誉棄損に当たるなど)として、裁判で撤去を命じられたケースもあります。

このような過激な反対運動は、周辺住民の結束の強さをアピールできるかもしれませんが、そのエリアの品位や閑静なイメージを壊すなどマイナスイメージを作ってしまうこともあり得ます。

また、あるマンションが建つとき、盛大に「反対!」ののぼりや横断幕を掲げたものの、結果的にマンションが建ち、住民が入居。その数年後、その隣地に別の業者がマンション計画を掲げ、数年前に反対されたマンションに住む住民も一緒になって再び「反対!」ののぼりと横断幕が出た―。そんなところもありましたが、前後の計画内容に大きな違いがない限り説得力がない反対運動です。

おわりに

昔に比べると大掛かりな反対運動は減っているように感じます。

長い間空き地だったり、高さの低い建物が並ぶ工場や倉庫だった場所に大きな建物が立つことで、ずっと変わらないと思っていた景観や環境が変わることに対し、好意的に感じる人は少ないと思います。しかし、法や条例などに違反していない限り「中止」に持ち込むのは難しいでしょう。

最近は、住民が減少している自治体が増えています。新しいマンションができてその地域の住民が増え、地域の活性化に繋がるならば自治体も「できれば穏便に計画を粛々と進めてほしい」と思うでしょう。

「その反対運動は自分やその周りに住む一部の人たちのエゴではないのか」という冷静な視点で考えることも大切です。声の大きい反対者がいて、住民間の関係を維持するためにその呼びかけに呼応してしまい、引くに引けなくなるという住民もいるようです。

最後に私見を述べさせていただければ、街は少しずつ変わっていくものです。あまりに問題がある計画には声を上げる必要もあります。しかし、地域住民でも「地域の活性化」や「自治体活動への参加」などを通じ、そのエリアに住む人たちが、今後も長きにわたって平穏な環境で暮らすために、変化を受け入れるということも必要な場合があると思います。

 
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