引き渡すだけの状態になって買い手から契約解除を申し入れられた
不動産売買契約を結び、契約書の作成から登記の確認までを滞りなく行ったのに、引渡しを目の前に契約を解除したいという
申し出があったという事例があります。
この場合、せっかく進めた手続きも意味がなくなってしまい、強制的に取引不成立となるため、売主にとっては大変残念な事態でしょう。
取引におけるトラブル事例の一つですが、その後の流れについて紹介していきます。
●買い手からの一方的な契約解除は成立するのか
この手のケースでは、引渡し前に買い手から契約解除の申し入れをしているという点です。
この行為は民法の557条1項にある
「解約手付の授受があった場合、契約当事者は契約解除権を留保し、相手方当事者が「履行に着手」するまでは、買主は手付を放棄し、
又は、売主は手付の倍額を償還することで、契約を解除することができます」
が前提となっているため、売主側にはこれに準ずる履行に着手した行為がなければ法的にはお咎め無く認められることになります。
履行に着手したと解釈できる範囲は、受け渡しに不可欠な前提行為の一部を行った時点で認められることになり、仲介業者の行為や
行政書士による業務は、これらの行為には該当しません。
例えば、所有権移転登記請求権の仮登記をした場合や、抵当権抹消のための返済を行った場合は欠かすことのできない前提行為と認められます。
●契約成立までにかかった諸費用は売主の負担に
仲介業者や行政書士などに書類作成を依頼した場合は、その諸費用に対する負担が売主に発生します。
これは、業者などには契約成立までの仲介をするという業務を遂行していると解釈できるため、その業務に対する
対価を支払わなければならないと解釈できるからです。
そのため契約が不成立となった場合でも、遂行した業務分に対する報酬を支払う義務が発生します。
(契約解除に関する責任は媒介業者には関与できる事項ではないと判断できるため)
しかし最近の事例では、契約成立に至らなかったということで、仲介業者に対する報酬を減算できるという判例もあるようです。
●手付金から費用を精算する
このケースで手付金の支払いがなされている場合には、買い手側の手付解除となり、手付金の返還を求めることはできません。
売主は、手付金の一部からそれまでにかかった費用を精算することができます。
ちなみに売主側から契約解除を申し入れる場合には、手付金の倍額を買い手に返還することで契約解除とすることが可能です。
●契約解除には相応のペナルティーがある
手付金といえども、購入金額の10%から20%程度に相当する金額になるため、決して安いものではありません。
手付金の授受が行われた時点で、その後の相応な理由なしに契約解除を申し入れることは、金銭的なペナルティーを受けることにもなります。
今回のケースでは、履行着手前という前提でしたが、着手後には損害賠償請求もありえるので留意しておきましょう。