石井くるみの民泊最前線
持続可能な観光立国に向けて、オーバーツーリズムを考える②~海外観光都市の事例~
カピバラ好き行政書士 石井くるみさんが民泊を始めとした宿泊関連ビジネスの最新情報を紹介します。
観光客が増えたことで市民生活に支障がおこるオーバーツーリズム。前回、前々回に続いて日本でも進行中と言われるオーバーツーリズムについて解説します。(リビンマガジンBiz編集部)
持続可能な観光立国に向けて、オーバーツーリズムを考える③
~日本におけるオーバーツーリズムの現状~
訪日外国人旅行者の急増を背景に、社会的な関心を集めているのが、旅行者と地域住民との間に生じる摩擦、いわゆる「オーバーツーリズム」の問題です。この問題について、日本の現状と今後の課題を見ていきたいと思います。
全体的な傾向
2018 年にUNWTOが世界主要15カ国の居住者を対象に実施した、「観光が地域に与える影響について」のアンケートにおいて、日本は、「ネガティブな影響を受けている」と回答した居住者の割合が最も低い結果となりました。他方、訪日外国人旅行者の「満足度」は非常に高くなっており、観光庁が毎年実施している「訪日外国人消費動向調査」によると、訪日旅行全体の満足度について「大変満足」又は「満足」と回答した訪日外国人旅行者の割合は、直近5年間、90%超となっています。
つまり、日本では全体的にオーバーツーリズムについての問題は大きくなく、旅行者の満足度も高い状態にあると言えます。
しかし、より詳細を調べてみると、一部の地域では、すでにオーバーツーリズムの問題が顕在化していることがうかがえます。より具体的な実態把握のため、214 の地方自治体を対象に、観光庁が2018 年度に別途実施したアンケート調査によると、138 の地方自治体が、訪問する旅行者の増加に関連する課題の発生を認識しており、特に近年では混雑やマナー違反に関する個別課題を強く意識する傾向にあることが分かりました。
アンケート結果によると、観光地において発生している課題には、「マイカーや観光バス等による交通渋滞」、「宿泊施設の不足」、「深夜の騒音の増加」「ごみ投棄」、「トイレの不適切な利用」、リゾート地などにおいては「季節的変動による雇用不安定」、「地域経済への影響」、「自然環境保護」、「立入禁止地区への侵入」などが挙げられています。
このような課題に対してすでに対策を実施している自治体もあり、例えば、「観光関連機関や民間事業者等との連携」、「イベント・ツアー等における地元企業、地元産品等の活用促進」、「広域連携による観光客の分散」、「レンタサイクル」、「オフ期イベント・誘客」等への取り組みが挙げられています。
先述の通り、日本全体的な傾向として、現時点では、他の主要観光国と比較してもオーバーツーリズムが広く発生する状況には至っていないものの、観光地を抱える多くの地方自治体において、混雑やマナー違反をはじめ、訪問する旅行者の増加に関連する個別課題の発生が認識されています。
今後はますます地域ごとの経済、コミュニティ・文化資源・環境に対する配慮し、オーバーツーリズム対策に取り組むことが重要になることでしょう。
すでに地域の観光振興や、適切な観光地マネジメントに取り組む自治体の事例をいくつかご紹介します。
入湯税のかさ上げ(北海道釧路市・洞爺湖温泉)
北海道釧路市では、2016年4月より、市内の阿寒湖温泉地区にある国際観光ホテル整備法登録ホテル・旅館の宿泊客に対しては、従来の入湯税 150 円にかさ上げした250円を徴収しています。 かさ上げによる入湯税の増収分は「釧路市観光振興臨時基金」に積み立てられ、地域の観光振興事業に役立てることとされています(小中学生及び就学前の児童、該当施設の日帰り利用等は課税が免除されます)。
宿泊税の導入(京都市)
国際文化観光都市としての魅力を高め、観光の振興を図る施策に要する費用に充てることを目的に、京都市では2018年10月1日に新たに宿泊税が導入されました。 納税義務者はホテル、旅館、簡易宿所等のほか、民泊等への宿泊者も含めたすべての宿泊者(修学旅行生等は免除)であり、税率は宿泊料金に応じて200~1000円と段階的に設定されています。
訪問する旅行者への情報提供 (京都市)
特に訪日外国人旅行者は、文化や生活習慣の違いから、そもそもマナー違反となる行為を認識していない場合が想定されます。そこで、「なぜこういうことをするのか」という点を逡巡し、ただ禁止するのではなく、背景となる文化・風習を知った上で、我が国において守って欲しいマナーについて適切に情報提供し理解を促していくことが重要です。
近年のオーバーツーリズムに関連する課題への関心の高まりから、各地域の地方自治体や観光地域づくり法人(DMO)等が観光地マネジメントに取り組み、オーバーツーリズムの状況の発生を未然に防ぎ、長期的に観光地のトータルでの魅力や評価を高め、観光の質の確保と両立しつつ更なる誘客につなげることが期待されます。
持続可能な観光の実現に向けた取り組みは、短期間で目に見える成果が挙がるとは限りませんが、2020 年 4,000 万人、2030 年 6,000 万人という政府目標も見据え、長期的な視点に立って、かつ、継続的に、各地域が一丸となって観光地マネジメントに取り組む体制を確立することは、今後の日本にとってとても重要なことと考えられるでしょう。