不動産売却後の契約解消
不動産売買は典型的な契約の一つですから、契約締結の後はその内容に従い代金の決済や引渡し、移転登記手続き等に向けて粛々と手続が進行していくのが通常です。
もっとも、このような契約の後であっても当事者に当初は想定できなかった事情が生じたことにより、契約が解消されるという場合も多々あります。
今回はその中で代表的な例として、①手付による契約解除、②ローン特約による契約解除、の2つをみていきたいと思います。
手付による契約解除
売買契約に際しては、買主から売主に対して手付として代金の10%前後の金額を交付することが通例としてなされています。
この性質としては、当事者の双方に特に理由もなく契約を解除する権利が留保されているという位置付けで良いと思います。
理由は問わないため、例えば「気が変わったからやめる」という場合でも認められます。
この手付解除を行うためには、買主は既に支払った手付を放棄し(手付損)、売主は受け取った金額の倍額を返金(倍返し)することになります。
また、この手付放棄(倍返し)による無条件解除が認められる時期は、「当事者の一方が契約の履行に着手するまで」(民法575条1項)とされています。
これは契約の完遂を意図して行動する他方当事者の信頼を保護するためで、具体的な不動産売買においては、登記移転・引渡し・建築工事の開始などがなされるまで、という理解で問題ないと思います。
ローン特約による契約解除
不動産売買という一般的に高額な取引において、買主は購入に際しローンを利用するのが通例です。
ところが、売買契約の締結後に買主がローン審査に通らないという事態も十分に考えられるものの、この場合に買主に契約に基づいた代金の支払いを迫るのは現実的とはいえません。
そこで、契約後に買主がローン審査に落ちた場合には契約を白紙の状態に戻す取り決めをあらかじめ契約の際に行っておく必要性が求められ、この手段がローン特約による解除という方法です。
この特約により契約は白紙となることから、買主が既に支払済みの手付金や仲介手数料等の全額が返金されることになります。
これは、売主にとっては何の恩恵ももたらさない特約ですがローンの利用以外に購入ができない買主にとっては切実といえる存在です。また裏を返せば、現金購入予定者はこの特約を考慮する必要がないことから、優先度や指値において優位な地位に立てるということがいえます。
まとめ
以上、契約締結後に起こりうる二つの典型的な契約解消法を紹介してきましたが、一般に高額な不動産取引であるゆえに双方が事前に慎重な検討を加え、契約上の合意に基づいた履行が粛々となされるのが理想です。
他方で、不動産売買は多くの人にとっては一生に何回もなされる取引ではない以上、後から翻意したり事情が変わったりする場合も否定できないことから、取引が無事に完結するまでは予断を許さないという認識は、当事者双方が持っておく必要があるといえるでしょう。