任意売却と一般的印象

 

 前稿で、その仕組みをみてきた任意売却ですが、一般的には任売(にんばい)などと呼ばれ債務者困窮の場合の独特のイメージがつきまとうためか、不動産取引に馴染みのない方には怪しい等というネガティブな印象を持たれる方もいるとききます。
 しかし、内容的には通常の不動産取引とほとんど異ならないばかりか、場合によっては“ある程度急いだ売却・決済”を希望する売主や債権者の存在から、買主にとっては市場価格よりも抑えた価格で購入できるチャンスともいえます。
 また、取引において、ある制度を利用するという場合には、イメージよりもむしろその制度にまつわるメリット・デメリットをきちんと把握することの方が自身に納得の行く経済的効果をもたらすといえます。

 そこで今回は、前稿の冒頭の初期投資費用を抑えるという観点から、買主の視点に絞って具体的な利用法と注意点をみていきたいと思います。

   

任意売却の利用法

 

 多くの業種がそうであるように、不動産業でも売買や賃貸等さまざまな専門分野に分かれています。
 同様に、任意売却を専門に行っている不動産業者もたくさんあるため、任意売却を検討する場合には、まずそのような業者の業務内容や取り扱い物件、過去の取引事例などについての情報を知ることは大切な視点です。
 もし、この中で話を聞いてみたい業者を見つけた場合には、希望の物件の属性や予算、ローン利用の有無等を明らかにした上で相談するのも一つの方策でしょう。

任意売却利用の注意点

 

 種々いわれる点はありますが、代表的なものは以下の4つといえるでしょう。
1、決済までに時間を要する場合がある
 これは債権者との交渉が必要になる場合があるためです。そのため、別の物件を検討したい等の機会損失を考慮する場合には注意が必要です
2、指値による値引き交渉などは困難である
 これは、任意売却が返済残額のうち可能な限りの回収の望む債権者とのギリギリの交渉を重ねた上での合意である、ということから考えてもディスカウントは困難といえるでしょう。
3、瑕疵担保責任(民法570条)が免責となる
 この点が、通常の不動産売買と異なる注意点です。この責任が免責となるのは、もともとローンの返済に窮していた売主には不動産を手放した以降の支払い能力は期待できず、そのため、市場価格より抑えた価格で物件を手放すという側面もあります。
 そこで、買主側の自衛策として、可能な場合は内覧や売主から物件概要示す書類を入手するなどして、物件状況をきちんと精査・把握することが必要になります。
4、売主の残置物が存する場合がある
 一般的な例ではありませんが、売主(債務者)の未処理で残っているケースもあります。この場合の方法としては、仲介業者に相談の上、売主に残置物の所有権を放棄してもらうなどの手続きを経て処分することになります。

任意売却による取得はチャンス!?
 
 以上、いくつかの注意点をみてきましたが、任意売却を通じた不動産取得の最大のメリットは“購入額を抑えられる可能性”にありました。
 これは任意売却が、売主(債務者)のローン返済が困難という場合の非常手段としてなされることによるものです。そのため、対象物件は、大抵それまで債務者が所有・居住していた優良物件であるという場合も多いです。

 通常の売買と比較して決して一般的な方法とはいえない任意売却ですが、利用の際には、できるだけ多くの情報を集め、具体的な物件を前にしても冷静な概要の精査とリスク分析を経ることで、取得費用を抑えて優良物件を手にするチャンスにもなり得るのですから、不動産投資の際の一つの選択肢に加えても良いと考えられます。

 
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