居住用不動産売却時の控除特例と共有マジック
個人がマイホームを売却したとき売却益が出る場合には、この利益は譲渡所得として課税の対象となりますが、この際、一定の要件のもとで居住用財産の譲渡の特例として売却益から3000万円までを控除することができます。
では、これが共有名義の不動産だった場合はどうなるでしょうか。
実はこの特例、共有の場合には、共有者のそれぞれについて要件を検討し、共有者毎に別々に特例を受けることが可能になっています。
わかり易い例として、AB夫妻が4000万円で購入したマイホーム(土地と建物)を9000万円で売却できたというケースで考えてみましょう。
これが、夫Aの単独所有の不動産であれば、5000万円の譲渡益が譲渡所得となり、特例による3000万円を控除した残額2000万円に対して課税がなされることでしょう。
これに対し、同じ不動産が夫A妻Bの共有(Aの持分が5分の3、Bの持分が5分の2)という例では、各々の持分に比例したAの譲渡所得3000万円、Bの譲渡所得2000万円に対して個々に特例が適用された結果、ともに譲渡所得に対する課税額は0円となるのです。
単独所有か夫婦の共有かという所有形態だけを異にし、それ以外の生活形態は全く同一という場合でもこれだけの違いが生じるのは非常に大きいです。
これは共有であるがゆえにもたらされたメリットであり、共有マジックの一つと言えるでしょう。
共有が恩恵をもたらす他の税務上の特例
これ以外にも共有であることによる税務上の特例は存在します。
例えば、住宅の購入価格の一定割合につき所得税から控除できる住宅ローン控除では、夫婦それぞれがローン残高や取得価格について控除が利用可能(共働きの夫婦の場合)であり、また同様のことは親子が共有の形で住宅を取得した場合にも当てはまります。
また、例えば2世帯住宅を親子の共有としておくことで、相続税の課税の際に大幅な課税評価減が可能になる「小規模宅地等の評価減の特例」が受けやすくなる、などのケースも考えられるのです。
共有のもつ潜在パワーと所有のあり方
こうして振り返ると、共有という所有形態にはまだまだ隠れた潜在パワーが認められるのであり、前稿で述べたように権利状態が複雑だからといって、それだけの理由で解消などしてしまっては当然マズいわけです。
いま改めて思うのは、結局、共有という所有形態が良いか悪いかという法技術論ではなく、不動産を所有しあるいは取得しようとする人達が、夫婦や親子など各々の家族関係や生活スタイルを背景に、自らはどのような所有形態をとるのが相応しいかを模索し決めていくことが大切になってくると思うのです。
そして、税務上も思わぬ効果が生じる場合もあることから、ときには適宜専門家のアドバイス等も仰ぎながら検討していくことが必要でしょう。