生成AIが不動産業務を塗り替える——現場から始まった革新の実態

賃貸仲介ビジネスは大きく変化しています。賃貸仲介業領域を得意とするコンサルタントの南智仁さんが、賃貸仲介の現場で繰り返される新しい風景を独自の視点で伝えます。

画像=PIXTAV
この文章は100%私の自力で書いているが、時にはChatGPTの力を借りて文章作成することもある。ただ、いかんせん文章作成のすべてをAIに依頼すると、文章のクセや、ネタのオリジナリティみたいなものがなくなり、無味無臭な文章になってしまう傾向が強い。とはいえ、こうした生成AIは圧倒的に私個人の仕事の仕方を大きく変えていっている実感がある。自分自身の仕事には、こうしたコラム執筆の他に、本来のコンサルタント業や不動産会社のかた向けの研修講師業などあるが、この研修講師のための資料作成は、現在かなり生成AIに作成を助けてもらっている。
おおよそのレジュメ案やその内容をChatGPTと会話しながら作成していく。これも文章作成同様にそっくりそのまま使うわけにはいかないが、それでもかなりの助けになる。また、その後の資料作成などもある程度の手助けをしてくれる。
ちなみに最近は経営コンサルタントの廃業が多くなり、そうした内容のニュースも目にすることがある。自分自身も我ながら、こうしたニュースに対して「そうだろうな」と感じることが多い。正直、専門的知識を獲得するだけならば、企業側にとっては、コンサルタントが必要なくなっているのが実情だ。詳しくは書かないが、今後のコンサルタントは「専門知識を組織や経営陣に人間的な力で導入できる」スキルがないと生き残ることは難しいだろう。
話は変わるが、先日訪問した20代のスタッフが大半を占める不動産会社は、ChatGPTを日常的に業務のなかで使っていた。オーナーの提案資料作成から契約書の雛形の作成、リーガルチェックなどの作成関係は当然のことながら、営業の進捗管理や日報、顧客からの相談対応の模範解答など、多くの業務で生成AIが導入されていた。興味深いのが、この生成AIの使用に対して、経営陣や上司からの指示ではなく自発的にスタッフが使用していることだ。言い方は悪いかもしれないが、生成AIを使いこなしていけば、「仕事が楽になる」ということに現場の若手スタッフは、確実に気がつき始めている。また一方で、こうした生成AIを全く使わない企業もある。このあたりの企業のリテラシーの差は、よくわからない。おそらく若手の現場スタッフのアンテナの張り具合の差なのか、そもそも偶然なのか。ただ近い将来、生成AIは不動産業務の大半の事務作業を巻き取ってしまうことになるだろう。
よくよく考えると、不動産業務と生産AIとの相性はとても良いと感じる。そもそも不動産業界自体が非常に多岐にわたる業務を抱えている。物件の取得、販売、管理、仲介、顧客対応、契約業務、マーケティング、営業戦略の立案など、業務内容は幅広い。これらの業務の中には、ルーチンワーク的なものや、ある程度テンプレート化できるものも多い。生成AIは、特にこうした反復的な業務に対して非常に効果を発揮する。
例えば、契約書のドラフト作成やリーガルチェックの補助、提案資料の下書き、さらには顧客対応のFAQ作成まで、生成AIのサポートが有効に機能する場面は多岐にわたる。
また、生成AIが普及するもう一つの要因として、コストの削減と効率化がある。不動産業務において、資料作成や調査業務にかかる工数は決して少なくない。大規模な開発プロジェクトを進める際の市場調査や資料作成には膨大な時間と労力が必要だ。こうした業務を生成AIに一部任せることで、作業の効率化とコスト削減を同時に図ることができる。また、生成AIの利用によって業務のスピードが上がることで、クライアントへの対応も迅速化され、顧客満足度の向上にもつながるというメリットがある。考えれば考えるほど、不動産業務と生成AIの相性は抜群に良いのだ。
とはいえ、こうした生成AIの導入は、全く問題がないのかと言われればけっしてそうではない。
たとえばデータの信頼性や品質の問題だ。生成AIが提供する情報や提案は、元となるデータに依存している。そのため、不正確な情報や偏ったデータが入力された場合、不適切なアウトプットが生成されるリスクがある。不動産業務では、法律や規制に関する正確な知識が必要とされる場面も多いため、生成AIを使う際には常に人間の確認と修正が不可欠だ(ちなみに私がAI作成に依頼した研修資料も多くの間違いがあったし、品質的にもあまり高くはなかったので相当の修正が必要だった)。
また情報セキュリティの問題や従業員の使用範囲などの取り決めなどさまざまなクリアすべき課題があることは間違いない。ただそうはいいながらも、この生成AIが不動産業務を「現場から」革新していくことは間違いないだろう。こうした動きはこの一年で圧倒的に広がっている。
今後、不動産会社としてベストな在り方は、AI生成を積極的に導入しながらも、人の力が必要なところにフォーカスを絞っていくことかもしれない。例えばオーナーやユーザーとの信頼関係の構築、取引先との関係強化などは、まさに人間関係の要素が強い。このようなポイントにしっかりとリソースを割けることができるかが重要になってくるだろう。間違いなくあと数年でAIによって不動産業務は大きく変化する。その変化に対応できるかどうかが、不動産会社各社が生き残るうえでの大きなテーマになるだろう。