営業提案の現場

賃貸仲介ビジネスは大きく変化しています。賃貸仲介業領域を得意とするコンサルタントの南智仁さんが、賃貸仲介の現場で繰り返される新しい風景を独自の視点で伝えます。

これまでのキャリアのなかで、優秀な営業メンバーの交渉現場に遭遇する機会が何度かあった。世の中には本当に交渉ごとが強い人間というものが存在している。思い返せば、学生の時からこうした交渉ごとに強かった友人がいた。相手側の要望とこちら側の要望をすり合わせて妥協点を探す。そして最後には双方納得できるように帰結させる。こうしたトラブルや交渉ごとを落ち着かせることが得意な人間は、生まれついての才能を持っているのかもしれない。

仕事上、私の営業時代について質問を頂くことがある。実際に私自身、過去の不動産営業の成績が良かったのかと聞かれれば、そんなことは全くなかった。かなり「並」の成績だったし、とりたてて他の人より営業力が秀でたわけではない。何よりも「ここぞ!」という交渉ごとが苦手だったので、最後の一踏ん張りができなかったように思う。しかし、ある時期からこうした交渉ごとに対して少しずつ慣れ始め、それにより営業成績も徐々に上がっていった記憶がある。そのきっかけの一つが「交渉が上手いメンバーのテクニックを真似る」ことであった。

実際のところ、現場での交渉ごとというのは、かなりストレスである。相手側が感情的になることもあるし、高圧的になることもある。また状況によっては、こちらが折れてはいけない状況に出くわせることもある。しかしこうしたハードな状況でも淡々と対応し、上手く交渉を落ち着かせる営業メンバーが過去、私の知り合いに数名いた。興味深いのが、交渉ごとの対応が上手いメンバー達は、共通のことを行っていたということである。先程も述べたように、実際、私自身も彼ら彼女らの交渉術も下手なりに真似をしたおかげで、多少の交渉術を身につけることができた。そこで今回は、優秀な仲介営業メンバーが共通的に使っていた交渉術を紹介してみたい。

まず何よりも交渉が上手い営業メンバーとそうではないメンバーの大きな違いは、圧倒的な「準備」である。出たとこ勝負で交渉を継続的に成功させている営業メンバーは、これまで実際に見たことがない。では、彼らはどのような準備を行っているのか?

それは徹底的に想定問答を準備しておくことである。

  • 「Aと質問されれば、aの回答を提示しよう」
  • 「Bと言われれば、代替のCとDを提示しよう」

こうした想定問答の準備をしっかりと行って、現場に臨む。もっとわかりやすく言えば、物件現地での

  • 「駅から遠いと言われた場合の回答」
  • 「リビングの広さが狭く感じると言われた場合の回答」
  • 「〇〇円の減額を求められた場合の回答」

などを事前に準備しておくというイメージだ。

実際にこうした先方の要望に対して回答を何も準備しないまま交渉を開始すると、それは武器を持っていないまま戦場に行くのと同じぐらい危険なことになってしまう。ただ、改めて考えてみてほしいのは、こうした準備をしっかりと行っている不動産営業のかたが、業界内では驚く程少ないという現実もあるということだ。なかなか同じ商品が少ないという不動産業界の特性なのかもしれないが、他の業界に比べてこうした想定問答の準備不足を顕著に感じることが多い。

また、こうした事前準備をしっかりとする以外に彼らが交渉時に実施している共通点として、実際の商談現場で「相手方の希望ゴールの明確化」を行うことも挙げられる。たとえば、「〇〇エリアに引っ越すこと」が先方のゴールなのか、それとも「とにかく何処でも良いので〇〇月までに引っ越すこと」が先方のゴールなのか、あるいはその両方なのかで商談の流れというものは、大きく変化していく。そのためにしっかりと先方のゴールを明確化することが重要になるのだ。

さらに共通するポイントとしては、「何段階かの妥協ライン」を設定しておくということだ。これは、本当にほぼ全ての交渉術に長けた営業メンバーが使っていた。具体的に言えば、たとえば相手方から減額を求められていたとする。そうした場合に、まず「10000円まで値引き」をこちら側の最終ラインとして設定し、交渉に臨む。しかし、最初の交渉では、「3000円の値引きはいかがですか?」と、最終ラインの金額よりも低い金額をこちら側から提案する。相手方が納得いかない場合は、「それでは5000円はいかがでしょうか?」と2度目の提案をする。最終的な10000円の値引きまでに何回かの段階的な提案内容を設定し、相手側が折れるように働きかける。かなり裏技のような気もするが、実際に多くのビジネスシーンで使われる手法である。

またこのような段階的な交渉の際に、優秀なメンバーは、「上司」というカードを上手く使う。上司の上手い使い方は、まさにこうした交渉の場面で上司をどのように登場させるかだ。ポイントとなるのは、「上司をスグに交渉の場に出さない」ということだろう。先程述べた段階的な提案の場合、最終段階に近いタイミングで上司を出席させて確約を取ることがコツだ。

以上のような交渉テクニックを彼らは本当に上手く使っていた。彼らの業務には、重たい条件交渉業務や眠れないほど胃が痛い値段交渉業務もあまりなかった。ただ、上記のようなテクニックを上手く使って、淡々と交渉を成功させて成果を上げていった。

不動産仲介営業のなかで、交渉をしなければいけないタイミングというのは何度もある。そうしたなかでしっかりと交渉を行う力を身につけて、対応していけば、それは必ず実際の営業活動で役立つことが多いだろう。実際に交渉に強い営業メンバーは、営業数字もそれに比例して高かった。是非、参考にしてみてほしい。

 
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