賃貸業界での同業者間の情報交換はどこまで重要なのか?
賃貸仲介ビジネスは大きく変化しています。賃貸仲介業領域を得意とするコンサルタントの南智仁さんが、賃貸仲介の現場で繰り返される新しい風景を独自の視点で伝えます。
まだ二十代の頃、新規事業に取り組んでいたとき、その事業の進め方で壁にぶつかった。今にして思えば、賃貸事業の基本的な事業だったのだが、当時は社内にこの分野の知見を持つメンバーは少なく、なかなか知識取得が難しかった。また、当時はインターネットが普及しておらず、書籍を探しても賃貸業務に関する書籍はほとんど存在していなかった。
その際に助けて頂いたのは、当時の同業者の先輩のかただった。食事の席で現在の自分の仕事の状況を伝え、ストレートに困っている部分を打ち明けた。もちろん、他社であるが故にそこまで詳細なアドバイスはされない。しかし、その時に断片的に頂いたアドバイスを参考にして、新規事業に取り組んだ。その後、ありがたいことにその新規事業は、少しずつ形になっていった。
また30代で事業責任者だった私は、当時の同業他社の社長の方々からかなり多くのことを学ばせてもらった。当時はなんとなく我流で事業を運営し、それなりに成果は出ていたが、それ以上に事業を拡大することはできず、もどかしい思いを持っていた。その時期に知り合った複数の同業他社の経営者の方と知り合う機会ができ、いろいろと情報交換をしたおかげで、かなり多くの知見を得ることができた。
不動産業界内での同業者との付き合いは、当たり前だがとても重要である。特に事業用、投資用の取引をメインに活動する不動産会社によっては、この同業他社との関係構築が生命線だったりする。また住宅用物件の売買仲介業務でも当然のことながら、同業他社の連携は、大きく自社の事業に影響を与えるだろう。
しかし賃貸業界はそうした事業内容の会社と比べて、同業他社との関係性は異なる。管理業においては、同業他社はどちらかといえば純然たる「ライバル」になりやすい。実際に賃貸管理会社間で取引する機会も少ない。
賃貸仲介業も同様だ。こちらは管理事業以上に同業他社は「ライバル」である。手の内を見せることは、それなりにリスクがあったりする。
しかし、そうした状況でも同業他社で情報交換することは多くのメリットがあるのだ。今まで気付かなかった事業のヒントが隠されているし、業務内容の改善やマネジメント方法など本当に学ぶことが多い。さらに言えば本当に細かい特定業態の事業戦略などは、ネットの情報では拾いきることができない。ネットの情報では、あくまでもスタンダードな内容がメインに掲載されている。現実的に事業者が欲しいものは、もっと詳細で具体的なものなのだ。
賃貸業界では以前からこうした他社同士の情報交換が協会団体や有志によって実施されてきた。同業界の展示会、フェアやフォーラムなどには、とてもたくさんの賃貸事業を行う不動産会社が参加する。こうした流れは、やはり「業界全体の発展という目的」が基本の考えにあるのだろう。もっとストレートに言えば、業界が衰退してしまうと、将来的には自分自身の会社も衰退していく。その為には、可能な限り情報をオープンにし、やり方や方法を共有したほうが良いという考えが根底にあるように感じる。ちなみに、こうした催し物で得られる知見以上にさらに学びたい事業者は、個人的に同業他社との関係性を深めていけばよい。
また賃貸業界では、ベンチマークしている企業への訪問などもよく行われている。協会でイベントとして実施しているケースもあるし、クローズで実施しているケースもある。ベンチマークをしている会社に訪問できることなどは、かなり全業界でも珍しいケースだ。そういう意味では賃貸業界はかなり「開かれた」業界なのかもしれない。
日本企業の代表者の高齢化が加速している。そのなかでも不動産業界はかなり代表者の高齢化が進んでいる業界のようだ。当然のことながら、これからは30代、40代の世代の社長が業界を引っ張っていく。もし現在のような賃貸事業者間の情報交換の機会が完全に無くなってしまうと、どのような世界になるだろう。実際に50代、60代の代表の方々は積極的に情報交流を行っているが、30代、40代の代表のかたは、そこまで積極的ではない。(単純にこの世代が忙しいという理由もあるが・・・)
無理強いをするようなものではないが、もし本当に困っていることがあり、社内で解決できない場合は、他社の知識に頼ってみるのもひとつの解決策である。実際に上記で紹介したように自分もそれで大いに助けてもらった過去がある。
また過去様々な不動産会社の代表者のかたとお会いしてきたが、成功している社長の共通点のひとつとして、「他社に頭を下げてノウハウを教えてもらった過去がある」ことがあげられる。わからないことは放置せず、わかる人に聞きに行くという基本の行動が事業を大きく成長させているように感じる。
もちろん、全て我流で大成功している会社もあるが、実際にそうした会社は、「同業他社から優秀な人材を雇用している」という事実もある。
改めて同業他社の関係性を考えてみても面白いかもしれない。