賃貸仲介ビジネスは大きく変化しています。賃貸仲介業領域を得意とするコンサルタントの南智仁さんが、賃貸仲介の現場で繰り返される新しい風景を独自の視点で伝えます。

不動産エージェント

画像=PIXTA

約10年以上前に、賃貸仲介エージェントのサービスがあった(現在は存在していない)。当時はかなり画期的なサービスだったが、収益化するのは難しかったのだろう。それなりの多店舗展開している不動産会社もそのサービスを利用し、エージェント登録をしていたが、集客の部分でもあまりメリットを出せていなかった。

また当時は、スマホの利用もそこまで世の中に浸透していなかったため、やり取りがPCメインだったのも原因ではないかと思う。ユーザーとのシームレスなやり取りも現実的に難しかったのだろう。

それから10年以上経過した現在、いくつかのエージェントサービスが立ち上がっている。上手くいっているサービスもあれば、そうではないサービスもあるようだ。当時とは異なり、ユーザーと不動産会社とのやり取りもスムーズになっているし、何よりもユーザー側のリテラシーも上がり、かなり使い勝手は良くなっているだろう。

よく知られているように海外ではエージェント制を用いての物件紹介を行っている国が多い。ただ、エージェントを一覧化したサイトがあって、そこからユーザーがエージェントに指名ができるようになっているわけではない。あくまでポータルサイトに物件が掲載されており、その物件に紐づいてエージェントが登録されているようだ。日本のポータルサイトに掲載されている不動産会社の会社情報に近い印象だ。

今後、将来日本の不動産市場において、このエージェント制は浸透するのだろうか。現在、仲介業務は大きな岐路に立っているように感じる(特に賃貸仲介業務)。仲介手数料の割引交渉や店舗運営コストなど、仲介業務単体では、収益を立てていくことは、それなりにハードルが高い。そう考えると、もし日本にエージェント制が確立されると、かなり不動産市場は変化するだろう。ユーザーの部屋探し自体の概念も大きく変わるかもしれない。しかし、現実問題として、なかなか業界構造的にこのエージェント制を国内で確立することは、相当難しいだろう。

その理由のひとつとして、(耳が痛い話だが)不動産業従事者の世間的な評価の問題がある。これもよく聞く話だが、海外の国によっては、不動産エージェントは、医師や弁護士のように世間では評価されている。しかし現在は、日本国内ではこのような評価はされていない。そうすると信頼性の部分で、なかなかエージェント制は世の中に浸透ができないかもしれない。

さらに、現在の国内全体の情報リテラシー、個人情報の問題もあるだろう。海外のサイトのように顔と名前を出したエージェントを不動産サイトに掲載するのも、やや気後れがあるだろう(特に女性スタッフの場合がそうかもしれない)。またエージェントの所属会社からの転職の問題もあるだろう。とある不動産会社から別の不動産会社に転職した場合、そのエージェントの価値や評価の担保などをクリアしなければならない。

また、実際のエージェントの「質」の問題もある。しっかりとエージェント制を敷いている企業が管理すれば、サービスの質はある程度担保されるが、業界全体にエージェント制を浸透しようとすると、このあたりの質の担保がかなり難しいのではないかと推測される。

実際に現在、ユーザーが一番求めているのは、「良い物件に入居できること」である。これはユーザーの根本的な希望である。いくら対応の良いエージェントと巡り合っても、ユーザーが納得できる物件に住むことができなければ意味がない。「対応は良かったが、良い物件に住むことができなかった」という言葉は、エージェントからすれば、胸に刺さる言葉だろう。

このように広く全体に不動産業界にエージェント制が確立されるのは、それなりにハードルが高いだろう。もし実現したとしても、浸透するには相当な時間を要する可能性が高い。

それでは、こうしたエージェント制が、日本に全く浸透しないかと言われれば、けっしてそんなことはない。完全紹介制で仲介業務を行い、しっかりと収益を立てている不動産会社もあれば、SNSを有効に活用し、「個人のブランド」で集客に成功している事業者も現時点でも存在する。また冒頭に紹介したようなエージェントシステムを、現在のクラウドシステムなどを有効活用して、しっかりとサービス化しようとしている会社もある。

ちなみに、ユーザーはあくまで「ユーザーにとって納得できる物件」に住むことが第一希望ではあるものの、不動産会社の対応について不満を持つユーザーも相当数多い。「担当者がいい加減でとてもストレスだった」「担当者の態度がとても横柄で、他の不動産会社にお願いをした」「不動産店舗の雰囲気が暗くてなんとなく怖かった」こうしたことは、ずっと以前からユーザーの声としてあがっている。いくら良い物件に住みたいからといっても、ぞんざいな態度で接客されたりすることを望むユーザーはひとりもいないだろう。

その点では、エージェント制は、かなりこのあたりのユーザーの声にしっかりと応えられるスキームなのは間違いない。業界全体がエージェント制になることは、難しいかもしれないが、局地的に緩やかに国内に浸透していく可能性は高い。そうなった場合、もしかしたら将来、日本独自の不動産エージェント制が生まれるかもしれない。どのような未来になるのかとても楽しみである。

 
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