賃貸仲介ビジネスは大きく変化しています。賃貸仲介業領域を得意とするコンサルタントの南智仁さんが、賃貸仲介の現場で繰り返される新しい風景を独自の視点で伝えます。

賃貸仲介の様子

画像=PIXTA

これまで不動産会社から聞かれた質問のなかで、トップレベルによく聞かれるのが以下の質問だ。

賃貸仲介は儲かりますか?

私の職業柄、新規事業のお手伝いをすることが多いが、特に管理会社様とお話している際は、本当によくこの質問を受ける。勿論、管理会社でも、自社で仲介を行っている不動産会社は、数多く存在している。こうした質問を頂く管理会社様は、あくまで「賃貸管理専業」で事業を行っている管理会社様に限定される。
ちなみにこの質問に対する私の回答は、「儲かることはできますが、なかなか簡単ではありません」である。実際に、賃貸仲介事業のみで収益を増加させていくことは、かなり至難の業(わざ)である。店舗をかまえるがゆえに発生するテナント賃料、ポータルサイト等に支払う広告宣伝費、そして人件費など、なかなかこうしたコストを賄いながら、うまく仲介事業を黒字化させている会社は、ほんのひと握りのように感じる。

ただ、そうはいいながら賃貸管理事業を専業で行っている管理会社にとっては、賃貸仲介事業は、ある部分では魅力的に見えるようだ。なによりも、自社に仲介機能を持つことは、オーナーに対しての大きなアピールになるし、そのことで管理物件獲得も推進することができる。さらに、エンドユーザーの声を直接聞けることで、市況の変化や業界のトレンドも把握しやすくなる。実際に部屋探しのユーザーと直接コミュニケーションができるのは、仲介担当者だけである。そう考えるとメリットはかなりあるのかもしれない。

とはいえ、繰り返しになるが、そうした魅力的な部分がありながら、実際、管理会社が仲介事業を新規事業で行う場合は、かなり大変な部分が多い。ゆるく賃貸仲介業でもやろうか、などと考えないほうが良いだろう。しっかりと新規事業として取り組み、精緻な計画を立てなければいけない。さらに、根本的な部分で管理会社が賃貸仲介事業を行うことに対していくかのハードルがある。

まずひとつめは、働き方の違いである。管理会社によっては、平日勤務で土日を休みにする、もしくは土日のどちらか1日休みプラス平日休みの勤務体系の場合が多い。しかし仲介事業ではそうはいかない。基本は土日の出社必須である。また店舗の営業時間により、当然、勤務時間も合わせないといけない。「9時から18時まで」と画一的に勤務することは難しいだろう。
さらに評価体制も異なる。管理会社はどちらかと言えば、定性評価で賞与支給額も各現場社員で大きな差は生まれない。管理受託系の仕事だと差が生まれるかもしれないが、PM業務などは、なかなか定量的な評価が難しい印象がある。いっぽうで仲介事業は、今も多くの会社が定量評価である。明確に数字に評価が現れるのが魅力的なところだが、この評価軸を、既存の管理事業の評価軸と統一するのは、かなり大変な印象だ。
勿論、こうした人事的な要因だけではない。冒頭に述べたコストの見立てと、それをカバーするための売上施策とその実行を継続して行っていかなければいけない。さらに、戦略的な部分も確定させていかなければいけない。このまま仲介事業を拡大し、人員増強にいくのか、それともあくまで自社管理物件の仲介のみにするのか。もし後者の場合、従業員への説明も必要になる。

このように管理会社が賃貸仲介事業を行うのは、思いのほか大変なのである。こうしたことを回避するために、大きな人員補強はせず、既存のメンバーのままで小規模で仲介事業を開始することもあるが、実際に事業をスタートさせると、管理業と仲介業の業務バランスを取るのが難しく、どちらかが疎かになるケースが多い。

とはいえ、全ての管理会社がこうしたことに陥ってしまうのかといわれれば決してそんなことはない。なかには、上手く仲介事業を軌道に乗せた管理会社も存在している。
とある管理会社は、仲介事業を行う際にかなり精緻なマーケティング調査、競合調査を行い、しっかりと予算を確保し、仲介事業をスタートさせた。最初の数年間は赤字続きだったが、3年程度経過してから大きく売上を伸ばし、オーナーへ強力にアピールすることに成功した。管理会社は、「自社管理物件を自社仲介する」という目標を掲げ、仲介事業を開始した。こちらも数年間は、他社の客付のほうが客付けの割合が大きかったが、現在は管理物件の大半は、自社仲介できるようになっている。
この2社の共通点として、ひとつは中長期的な視点でしっかりと計画を立て実行していることだ。どうしても事業の性質上、短期的な売上に目がいきがちだが、この2社は長い目で事業の成長を計画していた。またもうひとつの共通点としては、優秀な管理職の登用である。経験豊富な経験者を採用し、権限を与えながらも、しっかりと事業の進捗具合を確認する。けっして放置するわけではなく、とはいえ厳しく管理をするわけでもなく、任せるところは任せ、確認すべきところは確認することを徹底していた。

このようにやり方によっては、仲介事業を大きく伸ばすこともできるし、それが、管理会社にとって大きなメリットになりえる。かなり大変な部分もあるが、まず検討はしてみても良いかもしれない。

 
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