2024年の賃貸業界の3大課題とは?
賃貸仲介ビジネスは大きく変化しています。賃貸仲介業領域を得意とするコンサルタントの南智仁さんが、賃貸仲介の現場で繰り返される新しい風景を独自の視点で伝えます。
今回は、賃貸業界における3つの課題についてです。
年も明けて、2024年になり賃貸業界では、本格的な繁忙期が始まった。今年も引き続き、東京都心部のエリアでは相変わらず空室が少ない市況になるのではないかと予想される。
ちなみに、2020年から約3年程度のコロナ禍を経て、賃貸業界はDX化に向けて大きく変化した。この数年で電子申込やオンライン重説などは、かなり一般化してきたし、いっぽうでFAXなどの業務利用は大きく減少してきた。実際にユーザーと電話をする機会も減り、店舗での接客を希望するよりも現地で待ち合わせをして内見を希望するユーザーが増加した。緩やかながらも賃貸業界は、変わりつつあるのだ。しかし、それでも業界の課題というものはいまだに存在している。今回は、2024年になっても、解決策がなかなか生み出せない賃貸業界の3つの課題を紹介したい。
1.物件持ち込み、手数料問題
まずは、この数年続いている仲介手数料の割引の問題である。実際には、、10年以上前から課題にはなっていた。また最近は、手数料を50%以上受領する場合は、ユーザーが申込をする前にユーザー本人から同意を取らなければいけなくなっている。
このコラムでも以前紹介したが、仲介手数料という金額は、「上限」が決まっているが、「下限」が決まっていない。これにより、ユーザーの交渉や、仲介側の対応がかなり複雑化している印象を受ける。
オーナーからの広告宣伝費、業務委託費などがなく、他の収入が見込めない場合、仲介会社の運営は相当難しいのが現実だ。
また、最近では「持ち込み」を誘引する不動産会社も増加している。「他社で内見した物件を、持ち込んでください。安くしますよ」というビジネスだ。
業界では、かなり批判的な意見が多いようだ。たしかに経済合理性があり、法的な違反ではないかもしれないが、業界全体の倫理的な部分では、歓迎されないモデルであることは、間違いない。
2024年もこの手数料の交渉や持ち込みの問題などは、引き続き問題になるだろう。
2.ネットの掲載物件が終了している問題
最近は、おとり物件などはかなり少なくなっているが、ネット掲載の物件には、それ以外の大きな問題が存在している。それが「掲載している物件が、早々に終了してしまっている」という問題だ。
多くの仲介会社のスタッフが経験していることかもしれないが、ユーザーから送られてきたURLリンクの掲載物件に空室確認をしたものの、その物件のっほとんどが終了してしまっている状況が、まさにこれである。
現実的に、掲載物件に申し込みが入ると、自動的に掲載が落ちるようなことは、まだ完璧にはできないのが現状である(元付会社の掲載物件とAPI連動している、かつ申込と掲載の連動ができている場合は可能)。
仲介会社が直接掲載(API連動しない)し、空室確認をする場合は、意図せずともタイムラグが生じてしまう。そうするとどうしても、「既に終了(申込が入ってしまった)した物件」が市場に多く出てしまう。
さらにいえば、問い合わせ時には空室だったが、内覧の当日には申込が入ってしまっている場合もある。業界に長くいると、仕方ないことのように感じるが、ユーザーからすると、納得できないというのも一理ある。
こうした空室状況の課題は、かなり根深い問題のように感じる。逆にこのあたりが解決できれば、賃貸市場は、大きく変化するだろう。
3.慢性的な人手不足
賃貸仲介業のみならず賃貸管理業もそうだが、慢性に人手が足りていない。正確には、「営業のできる人材」が不足している印象だ。
最近は、不動産賃貸業務も、細分化・分業化が進んでいる。賃貸管理業でいえば、解約精算の業務、募集物件の掲載と契約手続き、賃料送金とオーナー報告など、各業務に分かれて人を配置している管理会社が増えてきた。
仲介業でも、物件掲載の入力スタッフ、内見専門のスタッフ、契約事務作業スタッフと分業制が進んでいる。
特徴的なところは、事務作業などを請け負うスタッフの雇用は比較的可能だが、実際の営業のメンバーの採用が、苦労しているという点だ。
賃貸管理業であれば、管理物件の受託の営業活動やオーナー提案を行う営業担当、そして賃貸仲介業では、物件紹介を行う営業担当などの人手不足が目立っている。
将来的には、不動産の営業活動はAIによって代替される可能性が高い。しかしながら、2024年の現在においては、まだ実在の人間による営業活動は大いに必要だ。実際に、ここ最近で仲介実績が伸びている仲介会社は、総じて「営業力」の強い会社である。そして、そういった人材の確保が年々難しくなっているような印象を受ける。まだ数年は、こうした人材の確保は課題になっていくだろう。
以上のように、業務の面においてのDX化は、進んではいるものの、構造的な部分では、賃貸業界は、課題が依然としてある。ただ、こうした課題に対して解決できるようなサービスや取り組みを行なっている会社も登場している。2024年も良い意味で、いろいろな負の部分が変革していくことを期待したいと思う。