賃貸仲介ビジネスは大きく変化しています。賃貸仲介業領域を得意とするコンサルタントの南智仁さんが、賃貸仲介の現場で繰り返される新しい風景を独自の視点で伝えます。

今回は、賃貸の繁忙期を迎えようとしている今、改めて賃貸物件の役割について考えます。

画像=PIXTA

すっかり季節も変わり、繁忙期の季節がやってきた。1月になると、賃貸業界は相当忙しくなる。繁忙期になると、多くの不動産会社の問い合わせ数が1.5〜2倍になり、とてもたくさんのユーザーが来店する。2月から3月にかけて、街中で仲介会社の車があちこちで見られるのは、もはや風物詩に近いものがある。

当然のことだが、繁忙期には様々な種類のユーザーが来店する。新入生、新社会人、転勤者、新婚のカップルなど、多種多様だ。多くのユーザーが、環境の変化によって、引っ越しせざるを得ないために、急いで引っ越し先を探す。

ただ、そんな繁忙期にも、少し変わった理由で引っ越しをするユーザーがいる。けっして大多数とは言えないが、「確かに存在している一定のニーズを持ったユーザー」。今回はそんな希望条件を持つユーザーと賃貸住宅の役割について、話をしたい。

たとえば、結婚とは逆の「離婚」のため、引っ越しを希望するユーザーがいる。日本の離婚率は、年々増しているそうだが、仲介の現場を見ていると、たしかに離婚を理由とした引っ越し希望のユーザーも増えている印象だ。仲介会社が、こうした問い合わせを受けた時に気になるのが、そのユーザーの「仕事の状況」である。たとえば専業主婦だったかたで、「現在定職に就いていなく、仕事をこれから探す」という場合は、入居審査がかなり厳しい。財産分与をして、蓄えがあったとしても、なかなか通りにくいのが現実だ。
個人的には、貯蓄額などを判断して、入居基準などを緩和したほうが良いと思うが、なかなかそうはいかないようだ。

その他にも、外国のユーザーの問い合わせも繁忙期には増加する。最近は、外国人の方の審査も柔軟に対応できる保証会社が増加しているが、まだまだこのあたりの整備ができていないように感じる。問い合わせをした外国の方が、ストレスなく申込まで進めるかと言えば、これはほぼゼロだろう。そもそも英語をはじめとする言語対応ができる仲介会社が驚くほど少ない。さらに言えば、こうした外国のかたに対して、日本の賃貸住宅の相場や手続きの流れなどを丁寧に説明し、サポートするサービスも少ない。外国のユーザーにとって、申込までたどり着くのが一苦労なのだ。

高齢者などの入居審査なども、相変わらずハードルが高い印象だ。特に都心部の賃貸物件では審査が厳しい。地方の過疎化が進んでいるエリアなどは、地元の不動産会社が、柔軟に対応している印象だが、都市部になるとなかなかそうはいかない。実際に高齢者のかたの部屋探しで、仲介会社がかなり苦心している現場を何度も見てきた。先述した貯蓄額などの審査判断などがあれば良いが、そうした審査基準も多くないうえに、さらに高齢者への賃貸住宅の提供には、瑕疵発生などのリスクもある。業界全体で条件緩和に動いているが、まだまだ課題は多く残っている。

そもそも賃貸住宅というのは、当たり前の話だが、ユーザーが「借りる」という行為が前提になっている。ユーザーが物件を「買う」選択肢がないことがポイントになる。まだ学生で資力がないので「借りる」。転勤で長くは住まないので「借りる」。新婚で家の購入前に自分たちの貯金を貯めるために「借りる」。

こうしたことを考えると、「離婚をして、生活基盤が変えるために借りる」、「海外から来日して、数年間日本にいる予定なので借りる」、「高齢のため、家を買う資力がないので、借りる」という選択肢も当然、世の中には存在していることを忘れてはいけない。

こうした課題は、あくまでユーザー側や社会的な課題の側面だけで語るだけでは不充分だ。当然のことながら、賃貸物件には、所有者(オーナー)、そして物件によっては管理会社が存在している。彼らにとって賃料の滞納や、トラブル、そして物件での事故はなんとしても防ぎたいところだ。私自身、仲介事業の支援をしながら、賃貸管理の現場の支援をしているので、このあたりの難しさをよく感じている。どちらの言い分も一理あるのだ。

冒頭に述べたように繁忙期になり、多くのユーザーが問い合わせを行い、来店するだろう。もしかしたら、そのなかには、入居審査が通りにくいユーザーもいるかもしれない。仲介会社として、こうしたユーザーに多くの時間を割いてしまうかもしれない。

しかし、将来的に、こうしたユーザーが、ストレスなく部屋探しをして、無事入居できる未来が、賃貸業界の目指すべき未来なのだろう。実現には、まだ時間がかかりそうだ。

 
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