仲介営業のスキルとして忘れがちな読解力と伝える力とは?
賃貸仲介ビジネスは大きく変化しています。賃貸仲介業領域を得意とするコンサルタントの南智仁さんが、賃貸仲介の現場で繰り返される新しい風景を独自の視点で伝えます。
今回は、不動産営業スキルとして重要な読解力と伝える力について考えます。
とある賃貸仲介会社の幹部のかたから、以前こんな相談を受けた。
「反響の返信時間を早くすることが重要だと思い、かなり反響返信時間を早くした。しかし、なかなか売上に結びつかない」
またそのかたは、こうも話していた。「申込後にキャンセルになることが多かったので、申込後のユーザー対応を可能な限り迅速にしたが、それでもキャンセルが多い」
反響からの来店率を高めるために、「返信時間を早くする」ということは、よくいわれることである。また、申込後のキャンセルを防ぐために、ユーザーへの対応をなるべく素早く行うことも、おさえておかなければいけない基本だ。しかし、その賃貸仲介会社は、なかなかそれを実行しても成果には結びついていなかった。
また、別の不動産会社の営業メンバーも、売上達成に苦しんでいた。彼は、接客をして申込を獲得することは、全社の誰よりも得意だった。しかし、反響からの顧客対応でトラブルになったり、申込後にキャンセルになったりすることが多かった。対応も早く、接客も上手いのに、今ひとつ売上が突き抜けることが少なく、トラブルになることも多かったのだ。
以前から報道などでも目にするが、日本人の若者の読解力が大きく落ち込んでいるそうだ。文字を読むことはできても、その文章を読み解き、意味を理解することができない人が多くなっているという。
私は専門家ではないのだが、いろいろと調べてみると、どうやら最近のSNSの普及や、読書時間の低下などが原因になっており、こうした読解力の低下と同時に、文章に対して適切な返信を行う能力も落ちているそうだ。確かに、読解力がなければ、適切な文章で返事をすることは、できないだろう。
ちなみに、私自身、コンサルタントの仕事をしているが、クライアントのかたとの最初の接点の大半が、自分の文章を読んで頂いたことがきっかけになっている。自分自身は、動画で喋ったり、SNSを積極的に発信したりしないが、1,000文字以上の文章を定期的に発信する同業者は、それほど多くはない。そういう意味では私自身は、「伝える力」ということに助けられてきたのかもしれない。
話を戻して、冒頭に紹介した仲介会社や担当者の不調の原因はなんだったのか。
実際に、この仲介会社の担当者のかたの細かい反響対応の文言やユーザーとのコミュニケーションの内容を確認させてもらった。そうすると、かなり「的外れの返信対応」が散見された。
たとえば、ユーザーから「このお部屋は、幹線道路に面しているようですが、騒音の問題はないでしょうか?」という質問に対し、「お隣のかたは、静かなかただと聞いております」という返答。
「10日13時なら空いております」という内容に対し、「ありがとうございます。それでは15時はいかがでしょうか?」という返答。
また、「現在ペットを飼っていますが、この物件はペット可能でしょうか?」という質問に対して、「残念ながらペットは不可です。是非、ご検討ください!」という返答。
冗談のように見えるかもしれないが、実際の返答内容である。確かにこうした返答が多いと、当然のことながら、来店にも結びつかないし、トラブルにもなりやすい。
こうした的外れな返信をしてしまう原因としては、「ぱっと文章を見て、内容を確認できないまま返信した」、「文章を読み解くことができずに、見当違いの返信をした」、「相手側の気持ちを汲み取っていない返信をした」などがあげられるだろう。
こうした仲介会社の対応に対して、当時は私自身や返信対応が上手い別のスタッフが返信内容の添削を行うことで、少しずつ改善していった。実際に、二次チェックをすることで、ケアレスミスの返信は大幅に減少した。
しかし、こうした一時的な対策は継続するのが難しい。メンバー自身が、本来の「読解力」、「伝える力」を身に付けなければいけないだろう。向上方法としては、読書時間を増加させ、本の内容を要約化し、それを第三者に伝える練習などがある。しかし、こうした読解力向上施策を社内で組織的に行うことは難しそうだ。そうなると、やはり個人で努力していかなければならない。
その反対に、取引先のなかには「読解力」と「伝える力」に非常に長けている営業メンバーもいた。とにかく返信率が群を抜いて高い。また、顧客とのトラブルもほとんどなく、評判も良い。特別、接客時の営業力は、抜きん出てはいなかったが、安定的に売り上げ数字を上げていた。ちなみに、今、そのメンバーは、その会社のナンバー2になり、大きく会社の業績を上げている。確かに、読解力と伝える力があれば、社外のみならず、社内でも信頼を得られるのかもしれない。
仲介業の売上を増加するためには、業務の効率化や営業の型化が効果的なのは、間違いない。しかし、全てが「テンプレート」で対応することは、できない。そうした場合は、「個別の対応力」が重要になってくる。
効率化や型化を進めるのと同時に、社内の個別対応を一度、見直してみてもいいかもしれない。