賃貸仲介単体の事業は都心部でしか成り立たない
賃貸仲介単体の事業は都心部でしか成り立たない
賃貸仲介ビジネスは大きく変化しています。賃貸仲介業領域を得意とするコンサルタントの南智仁さんが、賃貸仲介の現場で繰り返される新しい風景を独自の視点で伝えます。(リビンマガジンBiz編集部)
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東京の賃貸仲介ビジネス
私が上京したのは、今から15年以上前である。それまでは、京都で働いていて、出張で東京に行くことはあった。しかし、実際に引っ越しをして、東京で不動産の仕事を始めると、東京という都市の印象は、それまでと大きく異なった。
まず、最初に思ったことは、「地方都市」がいくつもある場所だということだ。京都であれ、仙台であれ、あくまで歓楽街はひとつ、せいぜい二箇所程度である。しかし、東京は、渋谷や新宿だけではない。吉祥寺もあれば、立川も、錦糸町もある。こうした街のそれぞれが、規模の大きい街である。上京したばかりの私は、あまりの歓楽街の多さとそれを内包している都市の全体の大きさに驚いたものだ。
また、それと同時に人の数の多さにも驚いた。勿論、それまでの出張などで、人の多さや多様性は理解していたつもりだが、実際に住んでみると、どこも人、人、人である。人があまりいない街は、23区にほとんど存在していないのではないだろうか。
こうしたことを印象に持ちながら、当時の私は、不動産の仕事として、同時にこうも考えていた。「これだけ街が大きく、人が多い場所であれば、不動産の案件はラクに取れるのではないだろうか」
確かに、首都圏にいると、売買案件であれ、賃貸案件であれ、その案件は、無限に存在しているように感じる。
地方都市で仕事をしていたときに一番苦労していたことは、「案件の獲得」、「顧客の獲得」だった。そもそもの分母が少ないので、案件の取り合いや顧客の奪い合いは、首都圏よりも激しいのだ。
それに比べて、首都圏だと、大量の仕事をこなすうちに、「次の案件」や「次(別)の顧客」という考えになりやすい。勿論、良い意味でも悪い意味でもだが。それほど、案件やユーザーが首都圏には、多く存在しているということなのだろう。
ちなみに、首都圏や大阪などの大都市圏以外で働いていたときは、「どのように管理物件を獲得するか」が事業目的の一番目にあった。
賃貸仲介は、管理物件を獲得するための、大きな武器であり、仲介力を上げることで、オーナーへ管理獲得の提案ができるようになる。これが賃貸仲介に対しての基本の考え方だったような気がする。
このような理由で、仲介店舗を出店したり、仲介スキルを上げるために研修を行なったりするのも、「管理物件獲得」という大きな目標のための施策のひとつと考える不動産会社が多かった。
そもそもが、「仲介業のみでは収益が成り立たない」のだ。地方都市は、賃料が安く、一件当たりの手数料の単価が低い。また、「顧客数の限界」もあげられる。冒頭に述べたように、私自身も首都圏と地方の分母の違いを当時は大きく感じていた。地方都市で限られたパイを奪うためには、営業力向上にかなり時間を割く必要がある。さもなくば、手数料のディスカウントで対抗するしかなくなるのだ。
そう考えると、首都圏以外の不動産会社が賃貸仲介業をやるならば、「管理物件を獲得するための手段」、「もしくは管理物件を維持するための機能(リーシングをして稼働率向上に貢献する)」という二軸の考え方になるだろう。
いっぽうで、都心部(首都圏、大阪)は、仲介業として単体で成り立つ。前述したようにとにかく人口が多い。マーケティング次第では、いっきに反響を獲得もできるし、営業力次第では、しっかりと利益をだすことができる。がっちり歩合を稼ぐ営業社員も少なくない。
不動産会社から転職して、独立した創業者も、「まずは賃貸仲介から」という戦略で創業することが多い。元手もかからないので、余程まずいマネージメントをしなければ、事業を軌道に乗せることができるだろう。
また、賃貸仲介業のみでも成り立つエリアには、独特の「仲介文化」がある。「トバシ」、「マンタク」、「ナリブツ」などのような業界言葉は、仲介業のみで成り立つことができるからこそ生まれた用語なのかもしれない。
私自身が、東京に来て、なにより驚いたことは、「賃貸仲介のみ」で収益を立てている不動産会社の多さである。仲介手数料、広告料だけで事業が成り立つという事実に何年経過しても慣れないものがあった。それほど、人口の多いエリアは、独特の仲介文化が醸成されていっているのである。
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賃貸仲介の一本足打法が成り立つはずだったが
しかしながら、この数年で、こうした「賃貸仲介業のみ」の不動産会社は、人口の多いエリアでも減ってきている印象がある。
多くの「賃貸仲介業」のみを生業にしていた不動産会社の多くが管理物件を獲得しようとオーナー営業を始めたり、売買仲介業なども並行して進めようとしている。
要因としては、やはり手数料の割引の要望の増加があげられるだろう。また都心部の管理会社自体が、自社で仲介を行おうとしている傾向もある。
たしかに、賃貸仲介業単体だと、固定的な売上は、ほぼ皆無である。管理事業であれば、定期的な管理手数料が毎月入ってくる。
また、賃貸仲介業は、営業マネージメントも大変だ。昔に比べれば、新しいメンバーに対して、細かくフォローをしていかなければ、あっという間に退職してしまう。
そう考えると、ますます「賃貸仲介業のみ」の不動産会社は、減少していく可能性が高いだろう。
とはいえ、実際、不動産運営でモノを言うのは、リーシング力である。結局物件を買ったオーナーが気にするのは、稼働率だ。いくら原状復帰の工事や、回収業務が秀でているPM会社があったとしても、リーシング力がなければオーナーの信頼はなかなか得られない。そう考えると、今後は、どこまで「賃貸仲介業を自社で行うのか」、そして「リーシング力」を強めていくのかが鍵となる。
この点では、地方都市のほうが圧倒的にバランスよく、安定した事業をしている印象を受ける。
今後、ベンチマークするべきは、こうした「自社仲介も行い、管理業務で売上を成り立たせている」不動産会社なのかもしれない。都市部でもこうした事業モデルの不動産会社が増えていく可能性は充分にある。
変化の渦中には必ずチャンスがある。これからの不動産事業全体の動きが楽しみである。