事故物件と対極にある「幸せになる物件」とは?
事故物件と対極にある「幸せになる物件」とは?
賃貸仲介ビジネスは大きく変化しています。賃貸仲介業領域を得意とするコンサルタントの南智仁さんが、賃貸仲介の現場で繰り返される新しい風景を独自の視点で伝えます。(リビンマガジンBiz編集部)
画像=写真AC
賃貸仲介担当なら知っている不思議な力を持つ物件
世の中での「事故物件」という名前の認知度は、この数年で大きく向上したように感じる。これまでは、「事故物件」といってもその意味を理解できる人は、不動産業界以外では少なかった。しかし、今は、不動産業界関係以外の人でも、この名前を知っている。これはやはりネットの影響によるところが大きいだろう。
そういった傾向があるので、仲介の現場では、申込後に「事故物件」という理由でキャンセルになることが増えてきたようだ。ユーザーからすれば、縁起の悪い物件よりは、縁起の良い物件に住みたいのは当然のことだ。自分が申し込みをした物件を、不動産会社に行った帰り道で事故物件サイトで検索する。その際、その物件に関して、サイト上でインパクトのある内容が出てくると、ユーザーは、契約に対して後ろ向きになってしまう。そして検討後、キャンセルの連絡を不動産会社に入れる、ということが多いようだ。
こうしたサイトを見ると、世の中には多くの「事故物件」があることがわかる。特に都心部に関しては、地図が塗りつぶされるほど、相当数にのぼる。気にする、気にしないは、あくまで個人の感覚にはなるが、気にし過ぎた場合は、お部屋探しの選択肢が減ってしまうことは間違いない。
こうした「事故物件」に関わる話は、この業界に20年もいると、いろいろと現場から聞こえてくる。「○○町の物件、実は、」、「△△会社が管理しているあの物件、〇年前に」といった具合だ。賃貸業界の現場にいると、とにかく耳にする機会が多い。
人間の本質なのかもしれないが、こうした「事件性のある話」や「不気味な話」は、やはり気になってしまう。いっぽうで、その対極にある「ラッキーな話」は、なかなか拡散されにくい。
「事故物件」の話はよく聞くが、「幸運が舞い込む物件」の話は、あまり聞かない。長い間、賃貸住宅ビジネスにかかわっている私自身も数件しか聞いたことがない。
出世する部屋
10年以上前の話である。
となる仲介会社の営業社員と話していた時のことだ。その彼は、仕事以外でも付き合いのある友人と呼べる同業者だった。彼と飲み屋にいた時のことである。
「私の会社で管理している物件に凄い物件が、あるんですよ」
ビールを飲み干し、彼は思い出したようにこう言った。
「とある物件の最上階の角部屋の部屋があるんですが、その部屋に住んだかた、みんな大出世しているんです」
「たまたまじゃないの?」私は訝しんで答えた。
「いえいえそんなことはないです。その物件は、普通の1Kなんですが、僕の先輩も言ってました。僕も最初は、信じていなかったのですが、どうやら本当に入居者のかた、みんなが大きく成功しているみたいなんです。これまでの入居者のかただと、先日、上場した○○会社の社長、今、ミュージシャンで大成功している○○、あとは、信じがたい話ですが、宝くじが当たった人もいました」
「そもそも」僕は彼の話を遮って言った。「そもそも、入居者が退去した後、どうやってその後の足取りを追跡できるの?通常は退去後、敷金精算の連絡をするぐらいで、その後の交流ってないでしょう?」
「それがですね」
彼は笑って言った。
「ずっと以前から幸運が舞い込む部屋っていうのが社内で周知されていたみたいで、僕の先輩の時代からは、入居者のかたの名前を記憶しておいて、折に触れてネットなどで検索していたみたいです」
「なるほど」
「入社して10年経ちますが、これまでその物件に2人入居して、退去しましたが、そのうちの1人は、とても大成功しています」
「それは凄い」
「はい。特に募集する際に、何か特別なことをしているわけではありません。また築年数も、25年程度経過しています。部屋も普通の1Kです。駅からもそこまで近いわけではないんです。唯一の特徴は、神社の隣の立地であることと、とにかく見晴らしがよくて、日当たりが良いんですよね」
また別の話だと、芸能関係のかたが引っ越しする際に、売れているタレントが退去した後の部屋を借りることが多いそうだ。秘密厳守の部分もあるだろうが、やはりどこかに「ゲンを担ぎたい」と思うようなことがあるのかもしれない。
これも芸能関係のかたの部屋探しをメインにしている不動産会社のスタッフから聞いた話だが、やはり「幸運を呼び込む部屋」はあるらしい。その部屋は、「見晴らしがよく、日当たりが良い部屋」が多いようだ。階数は、タワーマンションのような数十階のような階数ではなく、4〜5階ぐらいの階数とのことだ。
ある程度の業務経験をしている仲介営業メンバーは、「眺望」や「日当たり」がとても重要なことに気づいてくる。設備は、極端に言えば、二の次みたいな感覚だ。それよりも「見晴らし」だ。数百件近く内見をすると、その部屋の雰囲気みたいなものがなんとなくわかってくる。雰囲気の良い部屋は、ほぼ間違いなく「眺望が抜けている」部屋、「日当たりの良い」部屋のようだ。
よくよく冷静に考えると、人は一日のなかで「職場」か「自宅」にいる時間が多い。「自宅」にいる際に、食事をしたり、睡眠を取ったりしているが、意識することは少ないが「思考」もしている。自分自身の将来のことや目的などを自室で考える機会は圧倒的に多い。その際に、日当たりの悪い真っ暗な部屋で思考した結論と、見晴らしの良い部屋で思考した結論は、変わってくるかもしれない。もし仮に自分自身の部屋の所在階が一階であったとしても、多少雰囲気が開けていれば、良いかもしれない。それほど、物件の雰囲気は、重要なのだと感じる。
部屋紹介を行う仲介の現場だと、どうしてもユーザーの希望賃料や、希望設備などに目が行きがちだ。しかし、それとともに仲介業務において、重要なことは、こうした「プラス思考ができる部屋」の選定と提供なのかもしれない。新生活の後押しを行うのが、仲介業の仕事である。是非、こうした視点でお部屋紹介をしてみて欲しい。