FFのようなジョブシステムで突破する不動産キャリア

賃貸仲介ビジネスは大きく変化しています。賃貸仲介業領域を得意とするコンサルタントの南智仁さんが、賃貸仲介の現場で繰り返される新しい風景を独自の視点で伝えます。(リビンマガジンBiz編集部)

画像=写真AC

先日、とある不動産会社の社員と話していた際、こんな話題になった。「いつから営業として一人前になるのか?」その会社は売買仲介をメインの業務にしており、彼の言わんとする「一人前」というのは、「ひとりで決済、引き渡し」までできることを指している。彼が言うには、業務をひととおりできるようになるには、3件〜5件程度の仲介経験が必要になるらしい。勿論、不動産取引は奥深い。数件実務を行ったところで、全てを網羅できるわけではないが、それでもある程度は、取引業務を理解できるとのことだ。

非常に興味深いことに、売買仲介以外の他の不動産業務も似たようなところがある。賃貸仲介でも、やはり3件~4件程度、反響を獲得して、対応し、引き渡しまでの一連の業務を行うと、なんとなく仲介業務というものが理解できる。

また、大家との管理物件取得の手続きも、数件やると、なんとなく業務の流れや注意点がわかってくるようだ。

さらに、もっと言えば、土地の仕入れから販売までのデベロッパー的な業務も、同様だ。数件程度、経験すると、およその流れは頭に入ってくる。
 
中古住宅の売買仲介と賃貸住宅の仲介、住宅開発の業務はそれぞれ全く違った工程が必要になる。しかし、何故かはわからないが、こうした不動産取引においては、3〜5件程度の経験というのが、ひとつの基準になるようだ。

おそらく業務のはじめの1件目は、右も左もわからないまま業務を行うのだろう。2件目になると、最初の1件目との共通点と異なる点を感じながら対応をしていくようになる。3件目になってくると、共通点を認識しながら業務を推進していき、イレギュラーなポイントを認識していく。こうして頭の中に、業務フローが構築され、ひととおりの業務ができるようになる。

たしかに、私自身も賃貸仲介の最初の1件目の取引はとても緊張したような記憶がある。勿論、先輩にサポートはしてもらったものの、元来臆病な性格のため、とても不安だった記憶がある。しかし数件契約を実施していくと、取引の流れが頭に入ってきたのだろう、あまり気にならなくなった。

ちなみに、管理物件の獲得の際も、売買契約の際も同様だった。やはり先に述べたようなとにかく数件こなしてしまえば、なんとなく「身につく」ということかもしれない。

ただ、断っておくが、数件程度の決済や引き渡しを経験したところで、その道の「プロ」にはならない。ここから抜群の成績を残すためには、ただ業務を覚えるだけではなく、営業スキルやマルチタスクスキルの向上などを行い、より努力を積まなければいけない。そのことは忘れてはならない。

とはいえども、さまざまな不動産業務を網羅的に理解している人間は非常に重宝されるのも間違いない。売買仲介も賃貸仲介も理解しているメンバーや、賃貸管理業務と仕入れや販売業務を両方理解しているメンバーは、かなり少ない。不動産の業務は割と縦割りになっていて、なかなか他業務を理解する機会がないのだ。特にそれは、都市部ほど顕著になる。取引件数が多いため、細分化の効率が高まるのだろう。

バランスのとれたジョブスキルの大切さ

ところで、ファイナルファンタジーというロールプレイングゲームでは、ジョブシステムという仕組みを使いキャラクターを育てる方法ある。(全てのシリーズがそうではない)

たとえば、魔法のジョブ(スキル)を身につけて、その後、剣士にジョブ変更をすると、魔法も使える剣士になる。このように多くのジョブを経験することで、網羅的にプレイヤーを成長させることができるのである。ただ、面白いもので、上記のような過程で、全てのジョブスキルをマスターしようとすると、膨大な時間がかかってしまう。最適な時間でゲームクリアをするためには、バランスの取れたジョブスキルを身につけた方が良いのだ。

これは、実際のキャリアにも当てはまるような気がする。ひとつのジョブを極めていくと、他では追随できないような技を繰り出せる。現実世界では、所謂、匠の技のようなものだ。しかし、人生には限りがある。それを突き詰めることも良いが、他のスキルと組み合わせて、自身のレベルアップを図ることも間違いではないだろう。

不動産業務に関しても、様々なジョブシステムを身につけていくことで、自身の成長が大きく見込まれるだろう。ただ、難しいのが、ひとつの会社でそれを経験することが困難だということである。転職を繰り返して、さまざまなスキルを身につけるのもそれなりにリスクはあるだろう。

しかし、そうだとしても、多様な取引スキルを身につけることは、やはり成長の大きな要因のひとつとなりえる。たとえば、社内で賃貸仲介を行い、その後ジョブローテーションをして、管理業務を行うことで、賃貸住宅に関する業務の全体を把握できる。
 
不動産業務スキルは、現場の実務経験がとても重要だと言われる。冒頭に述べたように、数件の経験で業務の「本質」を感じることは、とても大切だ。実際、現場の経験がないと、営業戦略を検討しても、なかなか机上の空論になることも多い。

今後、今の若手メンバーが役員にキャリアアップしたり、経営者として不動産業界で独立したりした際、現場経験は大きくモノを言う。これから不動産業界でキャリアアップを目指されている方は、折に触れてこの話を思い出して頂ければ幸いだ。

 
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