不動産会社内における賃貸仲介事業の立ち位置について
不動産会社内における賃貸仲介事業の立ち位置について
画像=写真AC
この10年程度で、複数の不動産会社様の事業課題やお悩みを聞いてきた。不動産投資販売会社、売買仲介の会社、賃貸管理会社、そして賃貸仲介会社など、実に多岐に渡る。
ただ、こうしたご相談を頂く不動産会社のなかで、ひとつの事業のみ、つまり単一の事業内容の1本足打法を継続している会社は少ない。たとえば、「売買仲介業」がメイン事業ではあるが、「賃貸管理業」も同時に事業運営している会社もあれば、「賃貸管理業」がメインでも、「賃貸仲介業」も運営したりする会社などがそうだ。特にその傾向は、当然と言えば当然だが、会社の規模が大きくなればなるほど顕著になる。
ちなみに、これまでこうした複合的な不動産事業を運営している会社内で「賃貸仲介業」の事業運営責任をされているかたと話す機会がたくさんあった。先程の例であれば、「賃貸管理業」がメイン事業の会社の「賃貸仲介業」の責任者や、そして「売買仲介業」がメイン事業の会社の「賃貸仲介業」の責任者などがそうだ。
ただ、こうした状況のなかで運営責任者をしている部長、場合によっては役員のかたと、社内の話をすると、一様にみなさんの顔が曇る。
とある幹部は、私にこう呟いた。
「とにかく社内の立ち位置が低いんですよ。」
彼が言うには、とにかく売上の規模が他の事業と全然異なる。要は売上規模が小さい。ゼロ二桁額ぐらい異なるのもザラだ。またそれと同時に、そこまで他の事業に比べて利益が残らない。店舗の家賃や人件費などを考えると、トントンだと言うことだ。
また、さらに言えば、賃貸仲介業は残業も多い。一件、一件の業務が細かいため、従業員も遅くまで働くことが多く、モチベーション管理も大変とのことだ。
この幹部のかたが呟いたように、たしかに、賃貸仲介業というのは、不動産会社内のなかでも、あまり優遇されていないように感じる。
こうした社内の話が一社ではなく、多くあるというのは、ある意味、象徴的なことなのかもしれない。
賃貸仲介力は物件オーナーへのアピールになる
では、何故賃貸仲介事業は、社内的に立ち位置が低いのか。少し深掘って考えてみたい。
先程も記載したように、まず売上が他の事業と比べて低く、かつ利益も上がりにくい。また人に依存していることも往々にしてあり、成績の良いメンバーが退職すると、数字が落ち込む傾向がある。
また、売上の見通しも立て難い。予算を組んで、それに近い状態に売り上げを作るのは、実の所、かなり至難の業だ。外的要因の影響が高い客商売かつ、単価が低いゆえに、なかなか数字を読むことが難しくのだ。
経営側からすると、売り上げが低く、利益も出にくい、かつ、人に依存するビジネスに注力するべきかどうかと言われれば、かなりの経営者は、ノーと答えるだろう。これが、悲しい現実のひとつなのだ。
しかし、では何故こうした複業的な不動産会社が賃貸仲介事業に取り組むのか。それには明確な理由がやはり、あるのだ。
ひとつは、物件オーナーへのアピールである。オーナーからすると、所有物件を満室にするためにリーシング力の強い不動産会社に物件を任せたい。そう考えると、賃貸仲介事業をやっていることは、大きなアピールになる。また、仲介店舗数があると、信用たる仲介力の実績のアピールになる。オーナーからすると、空室は最大のリスクである。そのリスクを解消するために、仲介力の強い不動産会社に依頼することは、ごく真っ当なことなのかもしれない。
またもうひとつは、オーナー以外のステークホルダーのアピールにもなる。取引先などに店舗、仲介事業のアピールをすることで、大きな商談に繋がることもある。
さらに言うと、従業員のスキルアップにも繋がる。実際の仲介業務を経験することで、ユーザーの生の声を聞くこともできるし、なによりもコミュニケーション能力の向上に繋がる。また、管理物件獲得の営業や、投資物件の提案営業なども、仲介業務経験は大きく役に立つことができる。
以上のように、「賃貸仲介業務」を社内で推進することで、目に見えない「シナジー効果」(相乗効果)を生み出すことができる。
足元の売上、利益だけではないメリットが、賃貸仲介業にはあるのだ。
話は変わるが、よく管理会社の幹部のかたや、不動産投資販売会社の幹部のかたと話すと、「この物件を埋めることができるか」という具体的な相談を受けることがある。またさらにいえば、「どのようなリーシング対策をすべきか」という具体的な相談依頼もある。
彼らのこうした課題に、即座に返答できるのが、「賃貸仲介事業者」だ。現状の市況感を伝え、最適なリーシング対策を提案する。また投資的目線でも、この物件の市場価値を的確に判断することができる。
仲介業というのは、昨今は手数料云々の問題があり、なかなか儲かることは難しい。しかし、仲介業が無くなれば、不動産の市場はかなりバランスが悪くなるだろう。今一度、仲介業の立ち位置を見直してみても良いかもしれない。
仲介力という強みは、何事にも変え難い武器なのである。