学校の学習内容に、「不動産」という科目が欲しい。
学校の学習内容に、「不動産」という科目が欲しい。
賃貸仲介ビジネスは大きく変化しています。賃貸仲介業領域を得意とするコンサルタントの南智仁さんが、賃貸仲介の現場で繰り返される新しい風景を独自の視点で伝えます。(リビンマガジンBiz編集部)
画像=Pixabay
今年の繁忙期は、昨年や一昨年に比べると、それなりに忙しいようだ。とはいえ、一部報道にあるように、都心のワンルームは、やはり埋まりが悪い。相変わらず、郊外の広めの物件が根強い人気を誇っている。少なくとも、この数年で賃貸のトレンドは、都心部に限って言えば大きく変化したようだ。
では、仲介会社の売上は、今期はどうだろうか。勿論、各社によってバラバラだが、傾向として特に強く感じるのが、「管理物件の有無」がかなり売上を左右していることだ。実は、この傾向は今年に始まったことではない。ただ、管理物件を持っていない純粋なる仲介会社は、例年よりかなり苦労している印象を受ける。反響獲得はできているが、なかなか成約率が上がらないようだ。「いろいろと複数物件を見てまわりたい」という要望や「なるべく手数料の安い不動産会社で申込みしたい」という要望を持っているユーザーに振り回され、苦労している話をよく耳にする。仲介会社の言うことを鵜呑みにせず、少しでもお得な手数料で部屋探ししたい、という人が増えているようだ。
さて、そんなユーザーの変化を受けながらも、ユーザーのベーシックなリテラシーは、向上したのだろうか?
現実は、ユーザーの不動産知識はあまり向上していない気がする。
なかなかこうしたことは、あまり述べられていないが、不動産会社の現場では感じていることなのかもしれない。
実際、この間、話した不動産営業マンは、会食の席でこう呟いていた。
「ずっと疑問に思っていることでしたが、何故半年先の引っ越し予定なのに、わざわざ内見するんでしょうか?」
彼は、ため息を吐きながら、話した。
「半年先の引っ越し予定なのに、わざわざその時には埋まっている可能性が高い物件を内見する意味って殆どないのではないかと思うんです。たとえば、引っ越ししたい街の雰囲気を知りたくて、街をぶらつくのはわかります。ただ、わざわざ部屋まで見る必要はないかと思うんですよね。こうしたことって、なかなか周りには言えないですが。。。」
たしかに、入居希望時期が合わないユーザーは、とても多い。ポータルサイトによっては、半数以上の反響がこのケースの場合もある。仲介業界内では、こうしたユーザーの入居時期を早める提案をし、クロージングをし、申込を獲得するために、様々な努力をしなければいけなくなる。しかし、そもそも「入居時期が合わないのなら、わざわざ問い合わせし、内見をする必要はない」という原理原則を忘れてはならない。
彼はこうも言っていた。
「とにかく複数物件内見するお客さんが多すぎます。そりゃ、2.3件の内見なら、まだわかりますが、10件以上になると、最初に見た物件なんて覚えていません。また、内見した物件もどんどん終了していきます。流石に多すぎですよね。
単純に複数の物件を見て回るのって、とても非効率だと思いませんか?逆に一件だけ見て、スパッと契約されるかたのほうが、とても時間の使い方が上手いお客さんだと感じます。勿論、こんなことも社内では言えませんが。。」
これもある意味、その通りである。時間の効率性を考えたら、最小限の件数を内見し、納得したうえで、部屋を契約することのほうが良いに決まっている。
では、なぜこうしたことが起こっているのだろうか。ユーザーは、時期の合わない季節に物件を見て、どうせ借りられない部屋を必要以上に内見する。こうしたことは、我が国の賃貸業界独特の現象なのかもしれない。
反響数を突き詰めるポータルサイト
ちなみに、ポータルサイトでは、反響数が最大の指標である。多くのユーザーを不動産会社に送り込むことが何よりも重要視される。
当然と言えば当然だ。確度の高いユーザーを1組送客するよりも、確度の低いユーザーを100組送客するほうが不動産会社に喜ばれる。
しかしながら、この「反響数」を突き詰めていくと、だんだんと引っ越し意思の低いユーザーまで取り込んでいかなければならない。それにより、不動産会社の手間が増大していったとしても。
本来ならば、賃貸であれば「引っ越し時期の1ヶ月前」にならなければ、内見はするべきではない。むしろ、しないほうが良い。
また、効率を考えると、内見する物件は、少ないほうが良い。
さらにいえば、予算に合わない物件は内見するべきではないし、審査が落ちそうならば、まずその問題をクリアにしてから内見をしたほうがよい。
しかし、業界の構造的には、真逆になっているようだ。メディア側は、「どれだけ個人情報を不動産会社に提供するのか」を追い続け、不動産会社はそのユーザーの対応に追われる。
また、ユーザーは、「引っ越しの手続きや流れなどは、よくわからないけど、とにかく物件を見よう」と内覧予約を行う。構造的にも悪循環になっているのだ。
このような問題をクリアするには、表題のように、ユーザー自身の不動産知識をつけるために、しっかりとユーザーを育成していくことも重要になってくるだろう。
確度の低い顧客の確度を無理に上げようとする行為が不動産業界の不振に繋がることを気付かなければいけない。
流石に、学校の授業でこうしたことを教えることはできないだろうが、何かユーザーに不動産取引の知識をつけることはできないだろうか。なにせ、購入機会の少ない商材である。顧客体験が少ないが故に、無駄な工数が多くなるのだ。しかし、しっかりと内容を理解できるように発信していけば、不動産会社の工数は大きく削減できる。これは、個社の不動産会社の対応ではなく、業界をまきこんだ取り組みが必要だろう。
今後、反響成約率が100%に近いサービスが生まれることを期待したい。仲介営業の現場はもう限界だ。