入居審査が「通りにくい」ユーザーとは?
入居審査が「通りにくい」ユーザーとは?
賃貸仲介ビジネスは大きく変化しています。賃貸仲介業領域を得意とするコンサルタントの南智仁さんが、賃貸仲介の現場で繰り返される新しい風景を独自の視点で伝えます。(リビンマガジンBiz編集部)
画像=Pixta
入居審査の壁
不動産賃貸仲介店舗では、毎日多くの人から物件の問い合わせが来ている。当然、その引っ越しの理由は、種々様々だ。簡単に主要な引っ越し理由を纏めてみると、「進学」、「就職」、「転職」、「転勤」、「同棲」、「結婚」、「離婚」、「ステップアップ」、「通勤、通学の時間短縮」、「気分転換」と、あげていくと本当にキリがない。いずれにしても、多くの引っ越し理由で、人々は、不動産会社に物件の問い合わせを行なっているのである。
では、物件の問い合わせをし、希望の物件を申し込んだ人、全てが、その希望物件に住めるのかと言われれば、決してそういうわけではない。そこには、「入居審査」という壁がある。
「入居審査」というものは、とてもシンプルだ。保証会社や管理会社、または大家が「借主の資力があるのか」を確認する、もしくは、「家賃が支払われないというリスク」を検討する、というものだ。事故歴がない限り、特定の会社で勤めている、または、独立していたとしても、しっかりと収入があれば、審査は通る、ということが前提になっている。
しかし、そうはいっても一筋縄ではいかないケースも多々ある。なんといっても、実に様々な人が様々な理由で引っ越すのだ。思いも寄らず、入居審査で、つまずくケースも多いのが現実である。
とある会社の幹部から数年前に聞いた話を紹介したい。その会社は、複数店舗の仲介店舗を運営している不動産会社であった。幹部と酒席で話していた時、とある店舗の話題になった。
その店舗の所在していた場所は、都心でも有名な繁華街。山手線の内側にある、セレブも多いが、飲み屋や夜の店も多い場所だった。
「とにかく審査落ちが多いんですよね」幹部が溜息混じりに私に言った。
「とても単価は高いエリアで、お客さんもお金持ちの人が多いんです。けど、とにかく審査が通らなくて苦労しているんです」
その幹部によると、その店舗は、ベンチャー企業の社長や芸能人の卵のような若者、そして水商売のかたがとても多く来店されるそうだ。
「水商売のかただと、たしかに入居審査は難しい部分があります。しかし、厄介なのは、ベンチャー系の社長さんや、中小企業の法人契約ですね。とにかく管理会社も、嫌がるんです。また、面倒なのが、審査のお断りをそのかたがたに伝えても、2年分の賃料全部払うので、どうしてもダメですか?、と言われることなんです。そういうことではないんですけどね。。」
入居審査の基準として、たとえ仮に現預金があったとしても、審査落ちするケースもある。
画像=Pixta
高所得者でも落ちるから要注意
金融事故とは別に、たとえば会社を立ち上げて、まだ1.2年程度の法人代表、また投資などで一気に資産を築いたが定職のないかた、などがそうだ。現金を保有しているが、悲しいことにそれでも、入居審査落ちするケースが多いようだ。
また、法人契約を希望していても、その会社がまだ3.4期しか決算を終えていなく、かつ、税金対策などで赤字決算だった場合も、かなり審査は、困難になる。勿論、その法人の代表自体に資力がないわけではない。それでも、やはり審査は通りにくい印象だ。
また意外にも、大きな企業の社宅契約でも、NGになる場合もある。それは、いわゆる社長の「愛人宅」などがそうだ。年齢の若い女性の入居者が、かなり高額な物件を借り、法人契約を行う。その女性は、申込をした法人の「社員」と記載があるが、さすがに30万円の部屋に、OLさんが社宅で借りるわけはない。そうすると、管理会社、保証会社は、冷静に判断し、審査を落とす。
こうした審査落ちのケースにおいて、入居希望者は、審査が落ちたという事実に対して、時として、憤慨するケースもあるようだ。「金があるのに、なぜ?」。それは、ある種のプライドや体面が傷つけられたと感じることが原因なのかもしれない。
また、それ以外にも、悲しい現実として、「フリーランス 」などもなかなか審査が厳しいという声を聞く。副業も世の中では、一般的になっているが、「主要な勤め先は何処なのか」、そして「その収入はいくらなのか」、を判断する管理会社、保証会社が多いのが現状だ。
また、非常に珍しいケースとして、とある管理会社では、「弁護士」、「不動産業界の人間」をNGにしていると聞いたこともある。(職業差別に近いような気もするが)これは、相当な特殊なケースだが。
いずれにしても、こうした入居審査の可否で、思わぬクレームを招くことは、多い。仲介会社としては、真摯に対応しても、ひとたび審査落ちになると、それを覆すのは、非常に困難である。
こうした上記のようなケースに対して、現場でさまざまな経験をしていかなければ、営業メンバーが審査の知見を身につけることは難しい。ただ、そうはいっても、なるべく社内で共有を行い、事例を増やしていくことが重要である。特に新人の営業メンバーなどは、こうした「審査が危ない」、という勘どころがわからず、大きな沼にハマってしまうケースが非常に多い。積極的に社内共有を図り、リスクヘッジの対策を行うことが、良いだろう。
また当然、こうした「目に見えない」審査に対して危険信号が灯るユーザーには、接客の受付の段階から、しっかりとその旨を伝えておく必要があるだろう。「審査が難しい可能性があります」この一言を、事前に伝えるかどうかで、その後の流れも大きく変わるだろう。
冒頭で述べたように「引っ越し理由」は、様々だ。しかし、それと同時に「審査がNG」の理由も多くある。しっかりとこのあたりを社内共有し、事前対策を打つように準備をしてもらいたい。