明海大学不動産学部教員の小松広明です。今回は、私の担当する『不動産ファイナンス演習』について、受講している学生の意見や感想を織り交ぜながら紹介したいと思います。
なお、本科目は、不動産学科ファイナンスコースの選択必修科目であり、不動産ビジネスにおけるデータサイエンティスト(情報処理技術者)の人材育成を考慮したトレーニング・プログラムとなっています。
問題!
あなたは、下記の問に答えることができますか?
今、あなたは不動産仲介業者Qホーム株式会社に勤務している。ある日、顧客Wから新浦安駅を最寄り駅とする中古マンションの購入に関する相談を受けた。顧客Wの当該マンションの購入条件は以下のとおりである。
【顧客Wのマンション購入条件】
①予算:4,500万円未満(税別)
②距離:20分以内
③面積:55㎡超90㎡以下
④建築経過年数:35年未満
下記マンションAからマンションEのうちで、あなたが顧客Wに薦める物件名とその理由について示しなさい。
正解は?
上記の答えは、「マンションE」です。
その理由を説明することができますか?
この問い掛けに対して、統計データを用いて客観的に説明することのできる能力を育成する授業が、「不動産ファイナンス演習」です。つまり、根拠となる統計データはどこに存するのか、また当該データをどのような方法で分析すればよいのか、さらにその分析結果をどのように解釈すればよいのか、実際の取引価格データを用いて分析し、明確な答えを導き出す実践的な講義を毎回行っています。
講義の手順と内容
本講義は、金曜日の3時限目と4時限目に開講しています。3時限目で理論を中心に講義し、4時限目でPCを用いた実践的な演習を行っています。
具体的な講義内容は、ファイナンス論を中心として、NPV、IRR、DCF、CAPM、WACC、Hedonic(ヘドニック)価格関数の推定などを扱っています。講義では、毎回演習課題を課し、統計データに基づいた合理的な意思決定が行えるようにトレーニングしています。
PC講義室での不動産ファイナンス演習を受講する学生
学生の意見・感想
不動産学部3年生 張敬文さん(留学生)
「不動産ファイナンス演習の授業では、小松先生が講義の最初に演習に必要となる内容を説明し、それから小テストによって知識内容をチェックします。そして、Excelを使って演習課題に取り組みます。このやり方で、授業の内容をはっきりと理解することができます。」
不動産学部4年生 河本沙綾さん
「実際のデータを用いて分析を行うため、実践的で理解しやすいと思う。様々な視点、様々な方法で不動産の価値について考えることができる。」
不動産学部3年生 並木翔市君
「授業を受けてみて、データを分析して簡単に不動産の価格を出せることを知った。誰でもやり方さえ覚えれば、地域の物件の理論価格を算出できる。これには驚いた。」
PC演習における指導
PCを用いて演習課題に取り組む学生
分析手法とアウトプット
前記課題では、Hedonic(ヘドニック)価格関数を推定し、マンションの理論価格を推計します。具体的には、マンション価格を形成する要因のうち、最寄り駅までの距離、建築経過年数、専有面積の3つの要因に基づいて分析を行います。使用するデータは、国土交通省「土地総合情報システム」の「不動産取引価格情報」に掲載されている成約された既存マンションの取引価格データです。
アウトプットの解釈においては、比較する物件の取引価格との当該価格差も重要ですが、比率の差に人は反応しやすいという比率差原則(ration-difference principle)についても講義では触れています。これは行動ファイナンスにおける知見です。
以上の結果から、「マンションE」が最も理論価格に比べて2割程度低く、割安物件であると推計されます(下図参照)。
図:ヘドニック価格関数から推計された取引価格のアウトプット
発表を希望する学生については、ホワイトボードに自己の意思決定プロセスを記述したうえで、解説してもらいます(以下の写真参照)。
教員が直接解説するのに比べ、学生による説明の方が刺激を受けるようです。
演習課題の算定結果について自己の意思決定プロセスを解説する学生
学生の意見・感想
不動産学部4年生 田向雄一君
「不動産鑑定に繋がる資産価格の査定の演習などは、将来、役立ちそうな感じだ。不動産ファイナンス演習で学んだ知識とスキルをもとに、顧客にきちんと説明できるようになりたい。」
不動産学部3年生 及川成美さん
「数式で不動産価値が算定できるのがすごいと感じた。また、駅距離、築年数、規模などの不動産価格を形成する要因ごとに、不動産価格への影響度を出せるのがすごい。」
不動産学部4年生 山崎雄太郎君
「いろいろなWebサイトからデータをダウンロードして、自分たちで演習課題を解くのがとても楽しい。難しい演習課題が解けたときの感動や、やり切ったという達成感をすごく感じることができる。」
不動産データサイエンティストの育成
宅地建物取引士の方が、取引価格データを分析したうえで、顧客の条件に即応する最適な物件を、実証的根拠を添えて提示することができるようになれば、不動産流通市場は一層活性化するのではないでしょうか。
「不動産ファイナンス演習」の履修者の中には、宅地建物取引士資格試験に合格している学生が多く見受けられます。宅地建物取引士+データサイエンティストの能力を有し、不動産ビジネスをリードする人材を、ファイナンスコースの履修者の中から輩出することを願って日々講義しています。
このように不動産学科ファイナンスコースでは、ビッグデータ、AI時代において活躍できる不動産データサイエンティストの育成に力を入れています。
「不動産ファイナンス演習」を受講する不動産学部3年生・4年生