明海大学大学院不動産研究科1年生の高橋佑介です。
今回は、私が不動産学部の3学生の時に所属した中城ゼミの取り組みについて、その一部をご紹介します。
中城ゼミのテーマ
私が所属していた中城教授のゼミは、不動産学の中でも、不動産企画経営管理、不動産鑑定評価、建築設計の分野を扱っており、土地や建物を題材に、価値を創造することと客観的に価値を評価することの両面を学びます。具体的には、再分化された土地を一体化させて共同利用する計画と検証に取り組んでいます。空間の価値を可視化することをテーマとしていて、付加価値型の都市再生のために必要となる知識と技能を学びます。
少子高齢化や空き家問題を抱える社会では、増加し続ける建築物をストックとして使いこなし価値を生み出すことが不動産業の重要な役割となりますが、ゼミではそれを担うための骨格となる視点を得ることができます。
土地を一体化して利用する場合の付加価値について
相続を平等に行いたいという理由から法定相続割合で分割するなど、土地が細分化されている実態がありますが、細分化された土地に建てられた小規模ビルより大規模ビルの賃料が高いという不動産市場の実態があり、都市再生による大型ビルの建設も盛んに行われています。
そこで、細分化された土地を一体利用する場合の資産価値の向上の程度を把握します。ポイントは複数土地所有者が敷地を一体化して共同ビルを建築する場合の資産価値の変化を、立体的に考察する点です。また、DCF法を利用してビルの建設を行うべきか否かを検討します。
モデルケース
● 敷地Aと敷地Bは指定容積率600%の商業地域内の土地である。
● 敷地Aの前面道路幅員は12m、敷地Bの前面道路幅員は6mである。
● 敷地Aと敷地Bは隣接している。
● 還元利回りを5%、経費率を30%と仮定する。
図1 敷地Aと敷地B(土地の単独利用)
図2 敷地AB(土地の共同利用)
建物の規模の比較
建築可能な建物の延べ面積は建築基準法で規定されます。
敷地Aは前面道路幅員が12mあるため、指定容積率と基準容積率は共に600%になります。敷地Bも指定容積率は同じ600%ですが、前面道路幅員が6mのため、基準容積率は360%となります。両者を一体化した敷地ABは前面道路幅員が12mであるため、基準容積率は600%となります。
土地を単独利用して、敷地Aと敷地Bに別々にビルを建築する場合の延べ面積の合計は5,040㎡ですが、土地を共同利用して敷地ABに建築するビルの延べ面積は、7,200㎡になります。
土地を一体化することで2,160㎡(43%)広く建築することが可能となります。
土地価格の比較
不動産の価格には原価性、収益性、市場性があり、それぞれに対応する鑑定評価の3つの方式を併用して鑑定評価を行いますが、今回は、収益還元法を利用します。
収益還元法は、対象不動産が将来生み出すであろうと見込まれる純収益の現在価値の総和を求めます。具体的には、将来の毎年の純収益を予想し、それに複利現価率を乗じて現在価値に換算して合計します。
収益還元には複数の方法がありますが、不動産の純収益が一定で、かつ、永続すると仮定する、永久還元方式(直接還元法)を利用します。敷地Aに建てるビル、敷地Bに建てるビル、敷地ABに建てるビルの収益価格を求めると図3のようになります。ここでは、収益価格を単に土地の価格として求めるのではなく、ビルを建てて土地を立体的に利用する場合の空間価値として求めています。
共同ビルでは、土地所有者が公平にビルを取得する権利変換が重要となりますが、階数によって異なるビルの価値を把握できるこの方法を利用することで、権利変換を合理的に行うことができます。
図3 収益還元法を立体的に適用して求める空間価値の比較
土地を単独利用して、敷地Aと敷地Bに別々にビルを建築する場合の資産価値の合計は1,727,773,000円ですが、土地を共同して敷地ABに建築するビルの資産価値は3,526,394,000円になります。
土地を一体化することで資産価値が204.1%に倍増することがわかりました。
増分価値の配分
土地を一体化してビルを建てると資産価値が増えることが分かりました。それでは、増えた資産価値をどう分配するか考えます。
一般に、隣接した土地の売買に用いられる不動産価格は限定価格となります。敷地Aの所有者は敷地Bを購入することで不動産価値が3,526,394,000円になるので、差額の2,693,276,000円が支払っても損をしない購入限度額となります。同じように、敷地Bの所有者が支払っても損がない購入限度額は2,631,769,000円となります。そこで、今回は、共同化によって増えた価値を購入限度額の比で分配するのが適切と考えます。負担する建築費も同じように考えます。
このようにして決定した敷地Aと敷地Bの資産価値に応じ、図3を用いて各権利者が取得する建物部分を決定します(権利変換)。
DCF法の利用
DCF法とは割引キャッシュフロー法の略で、現在価値と将来の価値は異なるという資金の時間的価値を前提とし、投資期間中のキャッシュフローを全て現在時点に割引換算するという、理論的指標です。主なものには正味現在価値法(NPV)と内部収益率法(IRR)があります。この方法をそれぞれのビルに適用すると以下のとおりです。
●敷地Aに単独でビルを建設する場合
NPV<0となる為、自己資本を回収できないと思われます。
割引率<IRRとなる為、投資をするべきではないと考えられます。
● 敷地Bに単独でビルを建設する場合
NPV<0になる為、自己資本を回収できないと思われます。
割引率<IRRとなる為、投資をするべきではないと考えられます。
● 敷地AとBを一体利用してビルを建設する場合
NPV>0となる為、自己資本を回収出来ると思われます。
割引率>IRRとなる為、投資をしてもよいと考えられます。
おわりに
今回は私が学部3年次に受講したゼミの取り組みの一部をご紹介しました。
不動産学は建築、法律、経済と幅広い知識を必要とするため、他にも様々なゼミが行われています。
このようなコラムで不動産学に興味を持って頂ければ幸いです。