島﨑弁護士の「底地の気になるソコんとこ」
不動産の中でも、底地にまつわるトラブルは非常に多いです。
不動産に関する問題を多く取り扱う、半蔵門総合法律事務所の島﨑政虎弁護士に、実際に起きた事例や解決方法を紹介していただきます。
前回は、使用貸借契約が賃貸借契約に変化してしまうという事例を紹介しました。
「使用貸借」に切り替えて、地主に有利な契約を結ぶことはできる?
今回は、賃貸借契約の使用貸借契約への切り替えが認められなかった、という事例をご紹介します。(リビンマガジンBiz編集部)
(画像=写真AC)
<相談例>
地主「土地を無料で貸しています。借地人は70代で、生きてる間は使ってくれて良いと考えています。しかし、もしお亡くなりになったら返してほしいと思っています」
弁護士「なるほど。使用貸借契約にされているのですね。ただ、どのような書面を取り交しているかを確認させてください。もしかすると、明渡の請求が認められない可能性もあります」
今回は、使用貸借契約への切り替えが認められなかった事例を紹介します。
使用貸借契約の説明はこちら:
賃貸借契約の、使用貸借契約への切り替えが認められなかった事例
東京地裁平成28年12月8日判決を見てみましょう。
借地人の土地を購入した親族(以下「新地主」)が、両当事者の合意で土地を無償利用に切り替えました。新地主が死亡した後、新地主の子が使用貸借契約への変更及び期間経過を理由として、借地人に対して土地の明け渡しを請求しました。
しかし、以下のような要素が考慮され、賃貸借契約を使用貸借契約に変更する、という合意が認められず、、明け渡しについても認められませんでした。
<考慮要素>
・使用貸借契約に変更する、という明示の合意書がない
・当時の両当事者が無償での貸し付けに変更する合意をした1カ月半後に、「借地権が存続しており借地権の贈与ではない」という申出書を税務署に提出していた
・土地取得の経緯
・新地主と借地人とが親族であったこと
<税務署に提出した申出書内容の要旨>
“(土地の所有者)D・Cは,昭和63年12月9日に借地権の目的となつている下記所在の土地の所有権を取得し,以後その土地を(借地権者)Y1に無償で貸し付けることになりましたが,借地権者は従前の土地の所有者との間の土地の賃貸借契約に基づく借地権者の地位を放棄しておらず,借地権者としての地位には何らの変更をきたすものでないことを申し出ます。”
この申出書は、「土地賃貸借契約の合意解除」が条件によっては借地権の贈与と扱われてしまうことを意識して、節税対策として提出された書面だったようです。
しかし結果として、使用貸借契約への変更に合意がなかったことを示す書面として取り扱われることになりました。
今回の事案では、無償であっても賃貸借契約が残存している、と判断されてしまいました。申出書が、「使用貸借契約へ変更していない」ことを示す書面として考慮されたのです。
この事案で、新地主と借地人との間で実際にはどのようなやり取りがあったかは不明です。
結果として、28年以上にわたって土地を無償で使用されたにもかかわらず、「賃貸借契約である」と判断されました。
地主側からすると、退去させることが難しく土地利用の対価も得られない結論となったため、大きな損失といえます。
この裁判例のような結果にならないよう、使用貸借契約への変更については書面によって合意し、これと矛盾する内容の書面を作成しないことが重要です。
まとめ
使用貸借契約は借地権に比べて借主保護が非常に薄く、相手を出て行かせやすいため、地主にとっては賃貸借契約より好都合なものです。
使用貸借契約への変更は、書面により合意しないと後から合意があったかについて紛争になる可能性があります。また、その際に地主から借地人にどのような説明をしたかについても、説明書面などで残しておくと、後から合意の有効性を争われづらくなります。
使用貸借契約への変更と矛盾した内容の書面が残っていた場合、合意が認められない可能性もあります。
一方で、借地権の消滅は借地権の贈与として課税対象になる可能性もあるため、弁護士・税理士と協力して、最も不利にならない形の契約方法を選びましょう。
借地契約と使用貸借契約の区別についての基本的な点については、以下のウェブサイトに詳しくまとめてあります。併せてご覧いただければ幸いです。
【借主の金銭負担の程度により土地の使用貸借と借地(賃貸借)を判別する】