島﨑弁護士の「底地の気になるソコんとこ」
不動産の中でも、底地にまつわるトラブルは非常に多いです。
不動産に関する問題を多く取り扱う、半蔵門総合法律事務所の島﨑政虎弁護士に、実際に起きた事例や解決方法を紹介していただきます。
前回は、使用貸借契約が賃貸借契約に変化してしまうという事例を紹介しました。
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「借地」と「使用貸借」 変わる力関係
今回は、逆に賃貸借契約を使用貸借契約に切り替えることで、「土地利用者の保護の程度を下げることができるか」という点を、事例も交えてご紹介します。(リビンマガジンBiz編集部)
(画像=写真AC)
<相談例>
地主「土地を貸しています。借地人は70代で、生きてる間は使ってくれて良いと考えていますが、もしお亡くなりになったら返してほしいと思っています」
弁護士「なるほど。それならいい方法がありますよ」
■使用貸借とは?(おさらい)
前回紹介した通り、建物を所有するために借地人が一定の対価(賃料)を支払って土地を使用している場合、旧借地法や借地借家法によって、借地人は非常に手厚く保護されています。
一方で、土地利用者が土地利用の対価を払っていない場合は、土地の使用貸借となり、土地の利用者は保護されません。
<賃貸借と使用貸借の保護の程度の主な違い>
(画像=リビンマガジンBiz Biz編集部)
では、冒頭の相談例のように、土地利用者が亡くなった際、土地が返還されるように、賃貸借契約を使用貸借契約に変更することはできるのでしょうか。
■賃貸借契約を使用貸借契約に切り替えることができるのか?
契約を切り替えることは、法律上問題なく認められます。
最近の裁判例でも、口頭の合意で賃貸借契約を使用貸借に切り替えた、と認められた裁判例があります(東京地裁平成22年9月7日判決)。
この裁判例は、建物の賃貸借契約を契約当事者双方の合意によって、建物の使用貸借契約に変更した事例です。土地の場合も同様に、使用貸借契約への変更は認められる可能性があります。
■後日のトラブルを避けられるよう、契約書は作っておくべき
上記の裁判例では、口頭での使用貸借への変更合意が認められました。しかし別の類似した事案では、口頭だけでは賃貸借契約から使用貸借契約への変更の合意が存在しない、と判断した事例もあります(東京地裁平成28年12月8日判決)。
※この事例については次回詳しく取り上げます。
口頭での合意は、後日合意の存否を争われる可能性があります。また、借地人が後から「そんなに不利なものだとは思ってなかった」、つまり錯誤があったと主張して、変更合意の無効を主張する可能性もあります。
きちんと契約書で使用貸借に変更する旨を記載し、合意内容を明確に定めておくことで、事後のトラブルを予防できます。
■使用貸借契約に切り替えるメリット・デメリット
・地主側のメリット
上記した「賃貸借と使用貸借の保護の程度の主な違い」のとおり、使用貸借契約は原則として死亡した場合に確実に終了させることができます。
借地権と異なり、原則として相続されないという点は地主にとって大きなメリットです。
・借地人側のメリット
使用借人として無償で土地を使用できるようになる。
使用借人が存命している間は効力がある(※契約の定め方による)。
・デメリット
借地権は、土地価値の大きな割合を占める非常に高額な権利です。
一方で、無償で土地を使える使用借権の価値は非常に低いです。
形式上、借地人が「非常に価値の大きな権利を地主に対して無償で渡した」ということになりえます。そのため、税務上「借地権の贈与」と判断される可能性があります。
理論上は、贈与税の課税対象になりえます。
この規定には例外もあります。
税務面の詳細については、資産税に精通した税理士に相談することをおすすめします。
■まとめ
使用貸借契約は借地権に比べて保護が非常に薄く、地主にとっては賃貸借契約より好都合なものとなります。
使用貸借契約への変更は、書面により合意しないと、後から合意があったかについて紛争になることがあります。
また、その際に地主から借地人にどのような説明をしたかについても、説明書面などで残しておくと、後から合意の有効性を争われづらくなります。
借地契約と使用貸借契約の区別についての基本的な点については、以下のウェブサイトに詳しくまとめてあります。併せてご覧いただければ幸いです。
【借主の金銭負担の程度により土地の使用貸借と借地(賃貸借)を判別する】
https://www.mc-law.jp/fudousan/609/