島﨑弁護士の「底地の気になるソコんとこ」

不動産の中でも、底地にまつわるトラブルは非常に多いです。

不動産に関する問題を多く取り扱う、半蔵門総合法律事務所の島﨑政虎弁護士に、実際に起きた事例や解決方法を紹介していただきます。

前回まで3回にわたって地代の変更に関する相談事例を紹介しました。
弁護士が助言する地代増額 その1
弁護士が助言する地代増額 その2
弁護士が助言する地代増額 その3

今回は、「土地の利用の対価の額によって、土地利用者の保護の程度が変わる」という事例を紹介します。(リビンマガジンBiz編集部)


(画像=写真AC)

<相談例>
地主
「親戚に土地を使わせているのですが、固定資産税と都市計画税に相当する額しかもらっていません。もう少し地代を増額したいと考えているのですが…」
弁護士「それはやめておいた方が良いですよ。今からその理由を紹介します」

今回の相談は、土地を無償に近い値段で貸している地主からの、「賃料を増額したい」という相談です。弁護士は、なぜおすすめしなかったのでしょうか。

このような、土地や建物を無償もしくは必要経費の支払いだけで貸すことを「使用貸借」と呼びます。この使用貸借が今回のキモになります。

■使用貸借とは?

一般的な建物所有目的で土地を賃借している場合、つまり借地人が一定の対価(賃料)を支払って土地を使用している場合、旧借地法や借地借家法によって、借地人は非常に手厚く保護されています

一方で、土地利用者が利用の対価を払っていない、無償での利用だった場合、これを土地の「使用貸借」といいます。使用賃借の場合、通常の借地と異なり、土地の利用者は保護されません

<賃貸借と使用貸借の保護の程度の主な違い>

上記のように、賃貸借と使用貸借では、地主と土地使用者の力関係が大きく異なることが分かります。では、「使用貸借」の条件とはどういったものなのでしょうか。

■1円でも払っていれば「有償(賃貸借)」なのか?


無償での利用、といっても本当になにも支払わなくて良いわけではありません。

使用貸借契約でも、借りた物を使うために最低限必要な費用は借主が負担しなければなりません(民法595条1項)。土地の場合、固定資産税や都市計画税がこの必要費に当たります。

前出の相談事例では、土地利用者は必要経費である固定資産税や都市計画税に相当する額しか支払っておりませんので、使用貸借であると判断される可能性があります。

このように、特に低廉な金額を土地利用者が土地所有者に支払っている場合、借地契約(有償)なのか使用貸借契約(無償)なのかが、しばしば争いになります。

■どこからが「借地」なのか?


これについてのルールは法律上設けられていません。

「固定資産税の何倍を超えたら賃貸借」などと明確に定まっているわけではないのです。

判例上は、支払われている金銭が「使用収益に対する対価」といえるかどうかで判断しています(最高裁昭和41年10月27日判決 民集 20巻8号1649頁)。
いくつかの事例を紹介します。

1.最高裁昭和41年10月27日判決
固定資産税相当額の支払しかしていなかった事案です。
裁判所は、土地の使用収益に対する対価の意味をもつとはいえない旨判断し、使用貸借であると判断しました。

2.横浜地裁平成元年11月30日判決
(建物の事案ですが、内容自体は土地でも共通すると考えられます。)
【事案概要】
・固定資産税額は月額1万1,340円
・月額賃料は5,000円であり,固定資産税額(月額)を下回る。
・借主は貸主の妹で、貸主・借主の母親を介護していました。
 裁判所は、低廉な賃料は母親の介護負担を反映したものであると判断し、賃貸借契約であると判断しました。

3.東京地裁平成28年10月28日判決
(建物の事案ですが、内容自体は土地でも共通すると考えられます。)
【事案概要】
・固定資産税額は月額1万1,340円,水道光熱費は月額2万円であった。
・当初の30年間は無償だった。
・利用開始から30年後、月額7万7,000円の金員を所有者が請求し,以後は借主が貸主に毎月7万7000円の金員を支払っていた。

裁判所は、月額7万7,000円が必要費を大幅に超えていることから、当該金員を貸主が請求し,借主が支払い始めた時点で、両当事者の契約が賃貸借契約に変更されたと判断しました。

■まとめ


おおむね、借主側の負担が必要費(固定資産税、都市計画税)を上回った場合、賃貸借契約と認定される傾向にあります。この負担は、金銭的な負担だけでなく、介護などの労務負担も含めて判断されます。

また、当初は無償でも、あとからお金を支払わせるようになった場合、その時点で使用貸借契約から賃貸借契約に変更したと判断される可能性があります。

冒頭の相談事例のように、迂闊に地代を請求してしまうと、その時点から借地契約として土地利用者が非常に強力な保護を受けるようになってしまう恐れがあります。

借地契約と使用貸借契約の区別についての基本的な点については、以下のウェブサイトに詳しくまとめてあります。併せてご覧いただければ幸いです。

【借主の金銭負担の程度により土地の使用貸借と借地(賃貸借)を判別する】
https://www.mc-law.jp/fudousan/609/

 
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