島﨑弁護士の「底地の気になるソコんとこ」

不動産の中でも、底地にまつわるトラブルは非常に多いです。

不動産に関する問題を多く取り扱う、半蔵門総合法律事務所の島﨑政虎弁護士に、実際に起きた事例や解決方法を紹介していただきます。

前回に続き、借地人による借地上にある建物の貸し出しに関する相談事例をご紹介します。(リビンマガジンBiz編集部)


(画像=写真AC)

前回記事:「弁護士が助言する無断転貸解除 その1

<相談例~つづき~>
地主「借地人が第三者に土地を賃貸すること自体は、無断転貸に該当しないことは分かりました。では、どういったケースで賃貸借契約を解除できるのですか?」

弁護士「それはですね…」

今回は、借地人が別の人に建物を売ってしまった場合について解説します。

■「無断転貸」とは?(前回のまとめ)


・賃借人は、借りた物を貸主の承諾なく第三者に貸し出してはいけません(民法612条1項)。

・借地人が地主に無断で土地を第三者に貸し出した場合、原則として借地契約を解除できます(同法612条2項)。

しかし正確には、土地上の建物自体が譲渡された場合に、初めて「無断転貸」に該当する、というところまでを前回紹介しました。借地にある建物を第三者に賃貸しただけでは、無断転貸にはならないのです。

■無断転貸は「背信行為」があってはじめて認められる


また、仮に借地人が借りた物を貸主の承諾なく借地権を譲渡したとしても、「背信行為と認めるに足りない特段の事情」がある場合、借地契約は解除できません。(最高裁昭和28年9月25日)

この判例は、「借地契約が当事者間の信頼関係を基礎とする継続的な契約」である点から、「単に法律で定められている要件を満たしただけは解除できず、当事者間の信頼関係を破壊したといえるほどの契約違反がなければ解除ができない」という法理論を示しています。

つまり、単に借地権を譲渡しただけではなく、その譲渡自体が地主と借地人との間の信頼関係を破壊するものであることが必要なのです。

なお、前回紹介した建物の賃貸を禁止する特約など、個別の特約に対する違反に基づいて解除する場合も、無断転貸に基づく解除の場合と同様に、その違反が信頼関係を破壊する程度のものであることが要求されます。

■「背信行為と認めるに足りない特段の事情」の例


借地人と譲受人との間の関係や、土地の使用態様に実質的な変更があったか否か、という点が考慮されることが多いです。

裁判例で「背信行為と認めるに足りない特段の事情」があると判断された例を紹介します。

・借地人が、自己が代表者である法人に借地権を売却した場合
(最高裁昭和43年9月17日(株式会社)、最高裁昭和38年11月14日(宗教法人))
・借地権を近親者に対して譲渡した場合
(最高裁昭和39年1月16日(親→子))
(大阪地裁昭和44年12月1日(夫→妻))
・借地権の準共有者同士での譲渡の場合
(最高裁昭和29年10月7日、東京地裁昭和48年1月26日)
・借地権のうち、ごく一部だけを譲渡した場合
(最高裁昭和28年9月25日 借地201坪のうち20坪だけを譲渡)

この点でも、借地人は非常に強く保護されています。
無断転貸の疑いがあるとしても、ただちに借地人に対して解除を通知することは得策ではありません。解除を通知する前に、譲渡の実態についても詳しく調査して、解除が認められる可能性があるか否かを慎重に検討する必要があります。

■まとめ


借地権を無断で譲渡した、というだけでは借地契約の解除は認められません。

譲渡自体が地主と借地人との信頼関係を破壊するものであるかどうかなど、譲渡の実態について詳しく確認する必要があります。

背信行為についての基本的な点については、以下のウェブサイトに詳しくまとめてあります。併せてご覧いただければ幸いです。

【信頼関係破壊理論・背信行為論|基本事項|基準・主要な3効果】
https://www.mc-law.jp/fudousan/19151/

【信頼関係破壊理論|具体的判断|譲渡・転貸|法人成り・近親者への譲渡など】
https://www.mc-law.jp/fudousan/19155/

 
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