日本経済新聞によると、2016年の小売業調査で、ネット通販最大手アマゾンジャパンの売り上げが初めて1兆円を突破したという。2年連続で小売市場が縮小する日本において、ネット通販が店舗型小売業のシェアを奪う構図が鮮明になってきた。
アマゾンは、昨年末にボタン1つで品物を注文できる「アマゾンダッシュ」を商品化し、今年に入ってからも生鮮食品を届ける「アマゾンフレッシュ」などをスタートさせている。では、勢い止まらぬアマゾンが、もし不動産業界に進出したらどうなるのだろうか?システム開発やITに詳しいFP 正田きよ子氏に聞いた。(リビンマガジンBiz)


(撮影=リビンマガジンBiz編集部)

ネット書店として始まったアマゾンは、今や書籍だけでなく、家電や生活雑貨にいたるまで様々な商品をインターネットで販売しています。もしも、日本の不動産業界に進出したら、どんなことが考えられるでしょうか?

アマゾンが買い物難民を救う!?

アマゾンにはAmazon Dash Button(アマゾンダッシュボタン)というサービスがあります。Amazon Dash Buttonは、ワンプッシュで商品を注文できるボタンです。購入できる商品は日用品や、食品、飲料、生活雑貨、お酒など現在100種類以上に上ります。このボタンをアマゾンが管理している物件に住むお客に紹介することで、インターネットで買い物をしてこなかった顧客層の発掘が可能になります。

また、Amazon Dash Buttonなどのサービスが浸透することで、これまで買い物が不便だった立地にある物件の問題解決にもつながると思われます。不便なために家賃を下げても空き家となっていた物件への入居が促進されます。高齢者を中心とした「買い物難民」も救うことになるのではないでしょうか。

また、上記のような本業であるインターネット通販の売上拡大を見込んで、物件の仲介手数料の割引や無料といったキャンペーンを打つ可能性もあります。

アマゾンが得意な物件検索システム

アマゾンのサイトを利用した後、次に訪れると購入履歴や前回チェックした商品の「関連商品」がトップページに現れます。このように、購入履歴などから集積された顧客データを活用することで、家族構成などを推測しお客の求める不動産を自動的に紹介して、すみやかな不動産探しが可能になることが予想されます。

また、インターネット通販同様のインターフェースは、従来の不動産情報検索システムよりも使いやすくなる可能性があります。今までメインで使われていたSUUMOやathomeなどから、アマゾンでの不動産検索が主流になるのではないでしょうか。

不動産仲介業者は、物件紹介に長けたアマゾンにより、売上低下などの大きな打撃を受ける可能性があります。


アマゾンのトップページ (撮影=リビンマガジンBiz編集部)


アマゾンの弱点とは?

不動産業界に脅威をもたらしそうなアマゾンですが、弱点はリアルな顧客対応ができないことです。インターネット通販の売上拡大のためには、不動産の検索システムでの情報提供だけではなく、仲介した不動産のお客や、管理している不動産の入居者のコミュニケーションが必須です。また、不動産の仲介では内覧や重要事項の説明など、対面での対応が必要になります。

この対応として、既存の不動産会社を買収し、アマゾン不動産のリアル店舗として利用することが予想されます。
現にアマゾンは、アメリカにおいてリアル店舗への参入が予定されています。リアル店舗への取り組みは、Amazon Goというもので、レジがなくAI(人工知能)やスマホを駆使したコンビニエンスストアが運営される予定です。

・Amazon Go紹介動画

また、不動産会社の買収は、日本の宅建免許の取得なども目的としているかもしれません。
過去、アマゾンは日本での酒類の直販をするために必要な免許を取得するために、営業を終了していた酒屋を買収した経緯があるそうです。

■アマゾンが獲得した“ゾンビ免許”
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20140606/266390/


こういった経緯からも、不動産業界に参入する際には、既存の不動産会社の買収の可能性は高いと思われます。

内閣府発表の「平成29年版高齢社会白書」によると、2055年には日本の人口が1億人割れになるとのことです。人口が減少すれば空き家が増え、不動産業界の未来は明るいとはいえません。

また、小売業界も人口が減少することで従来型の店舗だけでは経営が成り立たなくなるでしょう。そうなると、食品や生活雑貨の購入は、ネット通販に頼る場面が多くなりそうです。

そういった将来を考えると、消費者のパイは小さくなるものの、アマゾンは顧客シェアの拡大で売上増が見込めるのではないでしょうか。また、ネット通販業と不動産業の相乗効果を狙い、不動産業界へ参入することも十分あり得ると思います。

現在の不動産会社が、アマゾンをただのインターネット通販の会社だと思っていると、もし不動産業界に進出したときには痛い目にあいそうですね。

 
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