私どもの事務所は税務調査の立会・弁護活動をしている。顧問の税理士や申告をした税理士は、自らが申告書を作成しているため、税務署から追及された際いわば、自己弁護をせざるを得ず、税務署に対して強く対応してくれないということがある。

そのニーズにこたえて、弊事務所では、顧問の税理士や申告書を作成した税理士はいる依頼者に対して、税務調査で納税者を守る、弁護人活動をしている。査察調査のほか、任意の税務調査の弁護立会活動を行っている。

 先日、ある兄弟から、税務署から連絡があり、相続税の調査に行きたいということで税務調査の対応を依頼された。兄弟のうち、兄が税務署に相談しながら、相続税の申告書を作成したらしい。

預金通帳を見せてもらったところ、母親が亡くなる前に、母親の承諾なく、2000万円を引き出したらしいが、これについては申告しなかったらしい。税務署は贈与ではないかと疑っているらしい。贈与税は最高税率が55パーセントと高いため、もし贈与の認定がされると追加の贈与税がかかってしまう。

そこで、私ども弁護士としては、権利者である母親の承諾なく、引き出して、自らの口座に入れたのであるから、横領であり、横領による損害賠償請求権を相続したと構成し、税務署に主張した。贈与は、あくまでも、母親の贈与の意思が必要なのに、母親の意思確認をせず、かってに兄弟が引き出し、自らの口座に移したのだから、贈与ではない、横領だと主張したのである。税務署も最終的には贈与ではないとして、相続税で申告することに同意した。

 ただ、税務調査の最中、兄弟も知らない母親の預金があり、その預金から3000万円もの預金が引き出され、その預金がいったん弟の口座に振り込まれ、その預金で弟が不動産を買っていたことが発覚した。

 弟が母親からお金をもらっていたのではないかと税務署の担当官から厳しく追及を受けた。弟は頭が真っ白になり何も言えない状況となってしまった。時刻が正午に差し掛かろうとしていたので、私たち弁護士がいったん昼休みとして午後1時から調査を再開させてくれるよう申し入れた。それで午後1時まで昼休みとなり、私たちが冷静に弟から話を聞くことができた。母親からお金は返してほしいと言われていたことや、年に1万円くらいは返したことがあることを聴取したため、税務署に対して母親からお金を借りて、不動産を購入したことを主張したのである。万が一、その場でお金をもらっていたと弟が供述したとすれば、多額の贈与税がかかっていたのである。当然、贈与税は申告していないので、さらに延滞税、無申告加算税等多額の税金が加算されたのである。

 このように税務調査の現場では、当事者の第一声が極めて重要な証拠となってしまうことがある。もし、弁護士などの代理人がいなければ、税務署のいうとおり、多額の贈与税が払わなければならなくなったのである。

 母親は弟にお金を貸し、弟はそのお金で不動産を購入したと主張したが、この不動産を購入した際に私どもが相談された場合、このようなアドバイスはしなかった。母親が母親のお金で不動産を購入し、遺母親が亡くなった際に弟に遺贈するとする遺言書を作成しておけばよいとアドバイスしたであろう。不動産は、購入した際の価格や現在の時価と比べて、低い、路線価、固定資産税評価額で評価され、さらに評価減された価格で計算された相続税を払えば良かったからである。

母親も兄弟も誰にも相談なく自らが考えて、そうしたのだろうが、もし、今回私たち弁護士が立ち会わなければ、どうなってしまっただろうか。多額の贈与税を課され、不動産も公売させられて失ってしまっていたかもしれない。

やはり、不動産の購入で親に援助してもらう場合があると思うが、そのような場合には、相談できる、かかりつけの弁護士や税理士などの専門家を持つ必要がある。また税務調査という有事の際、納税者のために税額が減るよう、一生懸命戦ってくれる税務調査弁護人が必要である。

 
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