東京国立近代美術館 (撮影=リビンマガジン編集部)

現在、東京国立近代美術館で行われている「日本の家 1945年以降の建築と暮らし」展は、56組の建築家による75件の住宅建築を、400点以上の模型や図面、写真、映像で紹介するという、大規模な展覧会だ。

訪れたのは雨が降る平日の午後だったが、人出が多く、その注目の高さに驚いた。

「日本の家」展は、戦後から現在までの、日本の家や建築家を13のテーマに分けて紹介している。
 


模型や写真、映像が展示されている (撮影=リビンマガジン編集部)

なぜ、戦後からの家を紹介しているのか疑問に感じた。日本の建築には、寝殿造や書院造といった伝統の建築文化があるからだ。疑問への答えは公式HPに載っていた。

日本の住宅建築におけるターニングポイントは、戦争の終わった1945 年。それまで都市部の人のほとんどは借家に住んでいましたが、一面が焦土と化し、住宅が圧倒的に不足する中、自ら土地を買って持ち家を建てることが、政策により推進されたのです。1950年には建築士法が施行され、多くの個人住宅が「建築家」によって設計されるようになりました。

戦後の住宅不足や60年代の高度経済成長は、日本の住宅建築に大きな影響を与えていた。住宅は産業化され、大量生産されていく。しかし、その一方で「家」というものが人間とどのような関係性を築いていけば良いのか、という考えが建築家たちのテーマになっていったのだ。

中でも印象に残ったいくつかを紹介したいと思う。

テーマ1「日本的なるもの」では、戦後間もなく建てられた丹下健三の自邸が紹介されている。近代的な高床式(ピロティ)でありながら木造平屋という日本の伝統が見事に調和している建物だ。

テーマ4「住宅は芸術である」では、この言葉を提唱した建築家・篠原一男が手掛けた家が紹介されている。


篠原一男「谷川さんの家」 (撮影=リビンマガジン編集部)

高度経済成長のなかで、産業化する住宅に危機感を抱いた篠原は、建築から「空間の響き」が失われていくと訴えた。

パーテーションの壁に篠原の著書『住宅論』から一節が紹介されていた。
失われたのは空間の響きだ

日本の住宅は美しくなければいけない、
空間には響きがなければいけないと
私は考えている。

戦後にあらわれた
合理的な生活様式が目指したものは、
この古い時代の様式の克服であった。
それは多くの部分で成功を収めた。
そして、同時に日本の空間から
響きを消してしまった。

当時、限られた空間で合理的な生活様式が求められていた風潮に反して、篠原は空間を大きくとる家を建てた。なかでも「谷川さんの家」は、傾斜地に建てられており、床面は傾斜をそのまま残し、土もそのままという奇抜な家だ。空間の響きとは、そういった自然にあるがままの広さや形を取り込んだ生活空間のことを指すのではないだろうか。施主が詩人の谷川俊太郎だという点も驚いた。

テーマ12「町家:まちをつくる家」では、家は住民のためだけではなく、統一感のあるまちを作り上げる要素としても一役を担っており、その中でも町家建築の魅力を紹介している。


安藤忠雄「住吉の長屋」 (撮影=リビンマガジン編集部)

高度経済成長期になると、「家の中に暗い場所が多い」「駐車場が設けられない」といった理由で、町家は不便なものだと評価されてしまう。また防災面や開発を進める都市計画からも更新を迫られ、日本各地にあった町家の街並みは失われていった。

それに反して、安藤忠雄も町家建築をてがけた建築家だ。
住吉の長屋」は、一見すると打ちっぱなしのコンクリートがむき出しになった無機質な建物だ。しかし、上から見ると吹き抜けのある中庭や浴室、ダイニングキッチンがあることがわかる。外観が与える印象とは異なって、内部は非常に生活を意識した造りになっている。

また、展示場中央部には、1952年に清家清が設計した「斎藤助教授の家」の実寸大の家がある。


清家清「斎藤助教授の家」 (撮影=リビンマガジン編集部)

靴を脱いで実際に中に入ることもできる。
板張りの縁側を少しすり足で歩いてみると、とても懐かしい気持ちになった。

「日本の家」展を通して、家と人間の関係が続く限り「家」に完成はない、と強く感じた。建築家たちは、時代の変化にとともに現れる社会問題と向き合い、その解決方法や新しい生活様式を提案し続けている。

日本人とともに今日まで歩んできた家の系譜を知ることができる展覧会だった。

(敬称略)

【イベント情報】

日本の家 1945年以降の建築と暮らし

会場:
東京国立近代美術館 1F 企画展ギャラリー
場所:
東京都千代田区北の丸公園3-1

開催期間:
2017年7月19日(水)~ 2017年10月29日(日)
休刊日:
月曜(9/18、10/9は開館)、9/19(火)、10/10(火)
開館時間:
10:00-17:00(金・土曜は10:00-21:00)
※入館は閉館30分前まで観覧料:
観覧料:
一般 1,200円
大学生 800円
※高校生以下および18歳未満、障害者手帳をお持ちの方とその付添者(1名)は無料。それぞれ入館の際、学生証等の年齢のわかるもの、障害者手帳等をご提示ください。
※金・土曜の17 時以降は、割引料金(一般 1,000 円、大学生 700 円)でご覧いただけます。
お問い合わせ:
03- 5777- 8600

 
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