映画:『あるふたりの情事、28の部屋』(2012年、アメリカ)
監督・脚本:マット・ロス
出演:クリス・メッシーナ、マリン・アイルランド他
映画は、いきなりセックスシーンから始まる。
タイトル通り、不倫関係にある男女が逢瀬を重ねる28種類の部屋を舞台にしたドラマだ。
登場するのは新進気鋭の小説家の男と企業の情報処理を行う女。何気ない会話から意気投合した2人は共に夜を過ごす。
女には夫がいて、男にも結婚を控えた彼女がいる。
1回きりのはずの関係が、様々なホテルで続いていく…。
映画は、ほぼ全編がホテルの一室だけで進む。
「605号室」「1209号室」と部屋が変わり、それぞれの部屋のショートストーリーを見ているような感覚に陥る。
観客には部屋番号だけしか提示されない。
そのため、客室での二人の関係性にのみフォーカスが当たる。
ホテルの一室 (画像=pixabay)※写真はイメージです
一方で、部屋の内装や、調度品、たとえばジャグジーなどが二人の心理に影響を及ぼす。
遊びのつもりが、関係を重ねるごとに、募っていく相手への愛。
その変化が丁寧につづられる。
ある時、女が思いを伝える。
「あなたが好き 仕事が集中できないくらいに、愛してる」
応える男。
「僕もだ」
さらに、女が問う。
「私たちって どういう関係なの?」
男が言う。
「君には旦那がいて、僕には彼女がいる」「浮気だ」
改めて、道ならぬ関係を認識する2人。
このシーンを分岐点にして、前半と後半で2人の関係が変わっていく。
前半は、恋人のように、じゃれ合っている。
しかし、後半になると、まるで夫婦のようにケンカをしたり、相手を労わったりするようになる。
肉体関係だけではない、愛情が芽生えていく。
あわせて、映像も大きく変わっている。
前半は、部屋の色が、白や肌色など明るい色を基調としているが、後半になると、黒やブルーといった、寂しさを感じる色合いに変わっている。
愛を知ることで、苦しさが湧き上がってきたのだろうか。
ホテルの一室 (画像=pixabay)※写真はイメージです
この映画のホテルでの出来事はすべて、登場人物の人生のサブストーリーでしかない。
仕事をして、夫や彼女と生活するメインストーリーがある。
不倫相手というのは自分のメインストーリーにはいないから、普段言えない、溜まっているものを吐き出せる相手となりうる。
いつ別れてもしょうがない関係だからこそ、自分をさらけ出せるのかもしれない。