「シャイニング」(1980・アメリカ)
監督:スタンリー・キューブリック
脚本: スタンリー・キューブリック、ダイアン・ジョンソン
出演:ジャック・ニコルソン、シェリー・デュヴァル、ダニー・ロイド、他
スタンリー・キューブリックによる『シャイニング』は、コロラド州ロッキー山にあるオーバールック・ホテルが舞台だ。
ホテルは厳しい寒さのため、冬の5カ月間、閉鎖する。主人公のジャックは、その閉鎖期間の住み込みの管理人として、家族を引き連れて訪れた。冬の間、ここで家族で生活するのだ。支配人のアルマンから、このホテルでは、むかし住み込みの管理人が、孤独によって心を病み、家族を惨殺した事件があったことを告げられるが、そんなことは意にも介さなかった。
そして、広いホテルで家族3人の生活が始まる。息子のダニーには、特殊な能力「シャイニング」があり、ホテルで起きた事件に関係する様々な怪奇現象に遭遇する。一方ジャックは次第に精神が崩壊し、いつしか目の前にはホテルの過去の光景が広がっていた。やがて、狂気にとらわれて息子の存在を疎ましく思ったジャックは、ダニーの殺害を計画する―。
オーバールック・ホテルはリゾートホテルだ。周囲は明媚な山や広大な自然に囲まれている。ホテルの造りは開放的で内装は明るい色が基調になっている。しかし本格的に冬が始まると周辺は雪によって外界から閉ざされ、一気に閉塞感が強くなる。
その、閉塞感に拍車をかけるのが、息子であるダニー目線の高さから見るホテルだ。子ども目線の方であれば、より空間を広く感じそうなものだが、実はそうではない。
ダニーがペダル漕ぎのカートでホテルの廊下を疾走するシーンが度々出てくるが、カメラはダニーの後ろにぴったりと張り付いている。自分と同じぐらいの高さのソファが並び、棚の上やキッチンのシンクは、上に何が置いてあるのか分からない。ダニーぐらいの年齢の視界は、上から俯瞰できる大人と違いとても狭いのだ。
こういった、大人に比べて狭い視界の子どもの、住まいでの事故は今も昔もなくなることはない。
NPO法人Safe Kids Japanの調べでは、家庭内事故で特に多いのが風呂場だという。浴槽のヘリが高く、子供の目線の高さでは浴槽の中がわかりにくい。頭を乗り出してしまうと、その重さで浴槽に転落し、おぼれてしまうのだ。
また、ベランダからの転落事故なども、大人なら転落する危険性が分かるのに、子どもは室外機に上がってそこから落ちてしまうなど、やはり空間の中に把握ができていない部分がある。
今やホラー映画の古典にもなった『シャイニング』は、今から35年以上前の作品だ。にも関わらず、今もなお色あせない存在感を放っているのは、「子どもの狭い視界」という、人間が成長の過程で必ず経験している感覚を、再び呼び戻しているからなのだろうか。
建物と環境が人の正気を奪うのが、この映画の主題だ。しかしながら、映画の中だけでなく危険は日常にこそ潜んでいると感じた。