「みんなのいえ」(2001・日本)
監督:三谷幸喜
脚本:三谷幸喜
出演:唐沢寿明、田中直紀、八木亜希子、田中邦衛、他
建築現場(画像=写真AC)
いつの時代も、庭付き一戸建ては日本人が持つあこがれだ。
2016年に、内閣府が公表した「住生活に関する世論調査」によると、住宅を購入するとしたら「新築の一戸建住宅がよい」と答えた割合は63.0%だった。同年、日本における住宅供給数は約96万戸で、減少傾向ではあるが、欧米などに比べると人口に対しての供給率は非常に高いことがわかる。日本人は新しい家が好きなのだ。
そんな日本人あこがれの「家を建てる」ことにスポットをあてた映画がある。
『みんなのいえ』は、演劇やテレビ・ラジオなどマルチな活躍を見せる三谷幸喜監督による映画だ。
田中直樹演じる放送作家の飯島直介と、その妻・民子(八木亜希子)夫妻は、二人の新居を建てることにする。設計は、民子の同窓であるデザイナーの柳沢(唐沢寿明)に。施工は民子の父親である長一郎(田中邦衛)に頼むことになった。しかし、両者が家の建て方をめぐって対立し、ドタバタ劇の幕が上がる。
玄関のドアの設置を巡り外開きにするか、内開きにするかをめぐって対峙する場面がある。長一郎は日本伝統の外開きを主張し、柳沢は家のコンセプトであるアメリカニズムから内開きを訴え、なかなか決まらない。ほかにも便所の位置や、大黒柱の有無、壁の色など、家づくりの細部にわたって二人のいがみ合いが続く。
夫妻は、二人の仲を取り持つことに翻弄される。
施主である彼らの要望から家が建つのかと思いきや、実際は長一郎と柳沢の意地の張り合いだ。経験やプライドをかけてこだわりを見せるシーンは、双方のプロフェッショナルを感じる。その一方で、実際に住むはずの夫妻の意見が全く汲み取られずにできあがっていく家は、SF映画に出てくる博士が、想像を超える得体のしれないモンスターを生みだしてしまう過程を見ているようだった。
建築図面(写真=写真AC)
ストーリーは、三谷監督の実話をもとに作られている。
三谷監督が自宅を建てた際、元妻・小林聡美の父親が大工で、設計を頼んだのは小林の友人のデザイナーだった。映画同様、大工とデザイナーは折り合いが悪かったという。
三谷監督は、「家を建てていくさま、というのが、なんかすごくスペクタクルな感じがしたんですよ。僕の中では、昔の映画でピラミッドの建設や天地創造、バベルの塔などという、ああいうスケールの大きい映画的な話と同じ匂いを感じたんですね」と語る(「東京人」2001年7月号・インタビューより)。
誰もが一度はあこがれる理想の家の建築、しかしその細分には家ができるまでに関わった「みんな」の苦悩や妥協が詰まっている。
敬称略