全保連(沖縄県那覇市)は、2001年11月創立、現在は24期目を迎える大手家賃債務保証会社だ。保有契約数は約194万件に上り、家賃債務保証市場でトップのシェアを誇る。事業領域は、従来の居住用物件の家賃債務保証に加え、事業用物件の保証や学費保証など、保証を軸に多方面に広がりを見せている。2023年10月には東証スタンダード市場に上場した同社。今後の展望や業界の課題について話を聞いた。

全保連・執行役員 コーポレート本部長 兼 経営企画部長の林憲司氏

 

拡大する全保連。その強みとは

「家賃債務保証は、不動産業界にとってなくてはならないサービスになっています」と語るのは、全保連・執行役員 コーポレート本部長 兼 経営企画部長の林憲司氏だ。「賃貸住宅を借りる際、今や入居者の8割が保証会社を活用しているというデータがあります」。そのニーズの高まりが、事業拡大の追い風になっているようだ。

民法改正なども後押しし、家賃債務保証業界全体の需要が高まっているなかで、業界のなかでも特にクリーンな経営を行っている点が全保連の特徴と、林氏は強調する。

上場企業として信用力が高いだけでなく、引当金などの財務管理を徹底している企業は同業でも少ないという。大手銀行出身の林氏は、「我々は保証を行う業界なので、デフォルトリスクに備えた財務処理の仕方がとても大切です。保証審査を厳格に行う体制や引当金の積み方など、業界で一番しっかりしていると自負しております。」と胸を張る。

全保連・執行役員 コーポレート本部長 兼 経営企画部長の林憲司氏

全保連・執行役員 コーポレート本部長 兼 経営企画部長 林憲司氏 撮影=リビンマガジンBiz取材班

「不動産オーナー(以下「賃貸人」)からすれば、入居者が家賃を滞納しても、保証会社がしっかりしていれば安定した家賃収入が確保でき、その結果安心していただくことができます。健全な経営を行っている点が、賃貸人や不動産管理会社から当社が選ばれる理由の一つになっています」(林氏)。安定した運営体制が、賃貸人や不動産管理会社からの信頼にも繋がっているようだ。

また、全保連の商品力も強みとなっている。同社は「概算払方式」と呼ばれるサービスの提供を行っている。通常、保証会社は賃貸人もしくは不動産管理会社から代位弁済の請求があると、立て替え払いを行う。つまり、入居者から家賃が支払われない状態が起きてから保証会社が動く。

これに対し、「概算払方式」では、入居者からの家賃支払いの有無に関わらず、あらかじめ概算した家賃相当額を賃貸人に支払うというものだ。

ただ、この方式は保証会社側の資金負担が大きい。保証会社は、代位弁済の請求がなくても、賃貸人に概算した家賃相当額を払い続けなければならないからだ。「当然乍ら、財務基盤がしっかりしていないと概算払方式のようなサービスは提供できません。当社ではメガバンク系の金融機関2社から、概算払方式による立て替え払いに対応が可能な与信枠をいただいていることで実現できています。これは同業他社との大きな差別化の要因となっています」(林氏)

家賃債務保証業界では、会社ごとのサービスの差別化が難しくなっていることから、ダンピングが横行している。そういった価格競争に巻き込まれない点でも、概算払方式は大きな価値を生み出しているようだ。

テクノロジー活用でさらなる効率化を実現

また、テクノロジーを活用した業務効率化や高度化に力を入れている点も大きなポイントだ。2020年には、社内の基幹システムを35億円かけて刷新し、効率化によって事業拡大を実現した。

加えて、2023年6月からは、保証審査にAIを導入した。これにより、細かなデータ分析に基づくリスク判定を可能にし、審査業務の高度化・効率化を実現した。「当社にはこれまでに蓄積した数百万件の審査データがあります。このデータと併せ、保証審査を通じてAIに多くの事例を学習させることで精度が向上し、通常では保証審査が通りにくい属性でもしっかり評価できるようになりました」(林氏)。

リスクを適切にコントロールし、事業を安定的に運営する。だからこそ信頼に足る存在でいられるのだろう。「家賃債務保証サービスは目に見えない商品です。だからこそ、提供する側の誠実さが問われます。常に高い倫理観を持ち、ステークホルダーとの約束を守り続けることなどの積み重ねが、確固たるブランド力となります」。林氏の言葉には、確固たる信念が宿っている。

さらに、取引相手である不動産管理会社の利便性を追求したサービス開発にも余念がない。

保証申込や契約管理をWEBで完結する「Z-WEB」もその一環だ。

「Z-WEB」

「Z-WEB」画像提供=全保連

「不動産業界は紙の書類が多いのが悩みですが、これが電子化されれば、賃貸人も入居者も利便性が格段に向上します。電子化はコロナ禍によってその動きが加速しています。こうした動きから『Z-WEB』をご利用いただく不動産管理会社は増加しており、当社は『Z-WEB』を通じて、不動産業界のDX推進に貢献できればと考えています」(林氏)

新たな保証分野への進出

全保連では、事業用物件の保証を次なる成長の起点と位置づけて注力している。オフィスやテナントなど、特に法人向け事業用物件の需要が高く、市場規模は8,000億円超と推計される。ただ、リスクも小さくない。

「事業用物件は家賃も高く、必然的に滞納が発生した際の影響が大きくなります。この市場は、信用力のある保証会社でないと参入することができない分野であると捉えており、当社の真価が問われるものと考えています」(林氏)

全保連・執行役員 コーポレート本部長 兼 経営企画部長 林憲司氏

全保連・林憲司氏 撮影=リビンマガジンBiz取材班

同社が着目するのが、高額な保証金(敷金)の問題だ。林氏は「今は事業用物件を借りる際、その殆どは家賃の6か月から1年分程度の保証金を賃貸人に預ける必要がありますが、これが事業用物件を借りるうえでのハードルになっていると考えています」と指摘する。

実際、飲食店の開業などを考える事業者からすれば、入居時にかかる初期費用の捻出は大きな負担だ。多額の保証金が事業者の資金繰りを圧迫し、事業の立ち上げを阻む要因になりかねない。

「その課題を、家賃債務保証で解決したいと思っています。保証会社が家賃や共益費などの支払いを保証することで、賃貸人は安定した家賃収入を確保することができ、これによって保証金を減額することができます。その結果、事業者は初期費用を抑えて、スムーズに開業することが期待できます。家賃滞納のリスクを保証会社が負うことで、賃貸人にとってもテナントの客付け促進に繫がるでしょう」(林氏)

さらに、不動産業界の枠を超えて、2024年4月から学費保証サービス「Z-College support」の提供を本格的に開始した。この学費保証サービスは、同社が戦略分野と位置付ける事業のひとつだ。

学費保証サービス「Z-College support」

学費保証サービス「Z-College support」画像提供=全保連

通常、学校の授業料等は一括支払いが原則だが、全保連が保証することにより、授業料等の納付を10回に分けて支払うことができるという仕組みだ。授業料等の分割払いを保証することで、学生の経済的負担を和らげ、教育機関の経営を支える。

現在は、専修学校での導入が進んでおり、提携する学校法人の開拓を進めているという。

「学生からすると、一括で納付できなくても、保証があれば、分割納付ができて、行きたい学校に進学できるようになります。学校からすると、今までは授業料等を一括で払える方しか生徒として募集できなかったが、 分割にすることで、生徒募集の幅が広がります。少子高齢化が進んでいるなかで、教育振興は社会的にも重要であり、より多くの学生様に学費保証サービスを提供し、授業料等の支払い方法を柔軟にすることで、教育振興の発展に寄与できると考えています」(林氏)

保証を軸として様々な分野へのサービス拡充を進めているのだ。

地方銀行との提携。地域振興にも注力

家賃債務保証サービスの事業拡大・営業面においては、地方銀行との連携を強化している。地方銀行が持つ地元のネットワークを生かし、地域に根差した顧客の開拓を進める考えだ。

「第1号として、2024年3月に滋賀銀行と提携しました。地方銀行に営業を委託することで、地方銀行としても、新たなビジネスチャンスのきっかけになればと考えています」(林氏)

人口減少社会にあって、地方の発展は喫緊の課題だ。

「家賃債務保証が地方に浸透すれば、大都市に行ってしまった人たちが還流するきっかけを作ることができます。家賃債務保証は賃貸借に付随するため、必然的にまだ自宅を保有していない若い人を中心としたサービスです。これを提供することで、若い人が地方に戻ってきてくれれば、産業振興・地方活性化に繋がっていくと考えています」(林氏)

変革の旗手として、不動産業界をリードしてきた全保連。その先進的な取り組みは、新たなステージを迎えようとしている。

「家賃債務保証をきっかけに、地域振興という大きな課題に応えることができると思います。地方銀行との連携はその社会的な意義も大きいと捉えており、シェアを伸ばしつつ、地域や世の中に貢献していきたいと考えています」(林氏)

 
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